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パニ・ハプ文化祭終了後〜義母さん、事件です!
【2】
根本はどうにかしたはずなんだけどなぁ。やっぱり世間(学校内)の目は冷たいままだ。
即日治まるものでもないと思ってはいたけど、やっぱ……キツいわ。
「ねぇ、吉武……」
あらぬウワサが蔓延しだしてから、俺に話しかけてくる人なんていつもの二人しかいなかったというのに。それでなくても、女子から声を掛けてくるなんてほぼないこの俺に声を掛けてきたのは……響だった。
「なに?」
彼女は回りを気にしながら、気まずそうに口を開いた。
「あのウワサ……ホントなの?」
コイツもか。何年俺という人物を見てんだ。って、そんなことを言えるほどの付き合いはしてなかったけど。そのせいでもあるのかな、こういうことになった理由には。
しかしそれでもアタマにくる。こないヤツなんていないだろ。
俺は響から顔を逸らして答えたが、
「……んなことするわけねぇだろ」
怒りは抑えきれず、言葉に乗って出ていった。
「……だよね? 吉武は――」
「咲良っ!」
女子の誰かが響の言葉を遮った。
「やめなよ、そんなヤツと話すの」
「変なウワサたてられても知らないよ?」
「ほら、咲良」
二人ぐらいが響を取り巻き、彼女の腕を引いて俺から離れた。
「あっ……」
響は何かを言おうとした。言いたげな表情のまま、友人に連れて行かれた。発そうとした言葉を飲み込んで、俺から目を逸らした。その時の響の顔は、とても辛そうな表情に見えた。
――ここは海に浮かぶ孤島。海には俺を食おうと狙っている生物がいる。
この中に落ちたら……俺はおしまいだ。
崖っぷちって……こういうことなのかな。
――ピンポンパンポーン♪
校内放送だ。
『三年一組の吉武紘貴、至急校長室まで』
今……足元の何かが崩れた気がした。
アタマの中で何かが切れたような気もした。
教師どもからお呼びだしか……やってやろうじゃん。
「やっぱりそうなんだ」
教室内のどこからか、そんな声が聞こえる。
「信じられない」
ホント、信じられないね。こんなバカげたウワサ話を鵜呑みにしやがって。
俺が思いきり机を叩いてから立ち上がると、ざわついていた教室が一瞬にして静かになった。何事もなかったよう教室を後にする俺に、クラスメイトたちは無言で視線を突き立てていた。
「みんな、ヒドいよ……。吉武はそんなことするような人じゃない」
俺が廊下に出てしばらくすると、聞き覚えのある女子の声が聞こえた。その声は、必死に訴えていた。
さっきまで疑ってたような気がしたのに……どうしてキミは一人で戦おうとしてるんだ?
俺は引き返さなかった。でもなぜか、胸が痛んだ。
「紘貴、大丈夫か?」
三階の階段付近で亮登に出会った。放送を聞いて教室に戻ろうとしていたらしい。
「大丈夫。俺はなにもしてないんだから」
「……だよな。ま、何か不利になったら、オレサマでも召喚しな」
「ああ、そうするわ」
いつもは頼りないちゃらんぽらん男が、ものすごく大きな存在に見えて、俺は心強かった。
すれ違う生徒に冷たい視線を送られながら階段を一階まで下り、職員室の隣にある行き慣れない校長室の前に辿り着いた。
着崩している制服を直し、持ち歩いているが付けていない名札を定位置に取り付けてから校長室のドアをノックしてクラスと名前を名乗った。
ドアに手を掛けようとしたら扉は勝手に開き、教頭だと思う人物が俺の顔を見て名札の方を見ていた。その視線はウワサを聞いた生徒たちと同じでとても冷たく、心地の悪いものだった。
「お、キミが吉武くんかね。入りなさい」
「はい。失礼します」
校長室には教頭のほかに、偉そうに自分の席にいる校長と応接セットの隅で肩身が狭そうな男……担任だ。まだ教師になってそう経ってそうにない先生はとても顔色が悪い。
「キミが吉武紘貴くんだね」
校長がそんな当たり前のことを聞いてくるので、俺は短く返事をした。
「どうしてここに呼ばれたか、分かっていますか?」
「生徒たちのウワサ、ですか」
「分かっているのなら話は早い」
「俺じゃないですから」
面倒な話し合いはしたくなかった。するだけ無駄なんだ。俺じゃないんだから。
しかし、そんなことでこの話が終わることもなければ、丸く治まるわけでもないことぐらい分かっている。
教頭がツバを飛ばしそうな勢いで、割り込んできた。
「誰だって自分に都合の悪いことが知れ渡ったら、そう言って逃げる!」
「だったら……してもないことを認めたら、それでいいんですか?」
俺は強く言葉を発した。
学校としては面倒なことは外部に漏れる前にどうにかしたいんだろうけど、それじゃ押し付けだ。冤罪って言うんじゃないの、そういうの。
「そうは言ってないんだがね……まぁ、こういう写真があるものだから……」
と、こちらに写真を見せてくる校長。
昨日、三人組に見せられたものと同じ写真だった。
俺が高校に入ってから父と背格好が同じぐらいになった。それでなくても顔がよく似てると言われていたのに……勘違いされてもしょうがないと思うけど、これはあんまりだ。
「間違いなく俺ではありません。まぁ、どっちも知ってる人ですけど」
できるだけ冷静にそう言ったが、校長の表情を見る限り、そんなことでは納得してくれないようだ。
「そんなことで信用できるかぁ!!」
教頭が背後からものすごい声を上げた。
全く信用する気のないその言葉。さすがの俺も何かがぷっつりと切れた。
俺は勢いよく体の向きを一八〇度変え、教頭の顔を睨みつけた。
「じゃぁやってもないことを俺が認めたらアンタはそれで満足か!」
教頭は俺の勢いに少し怯えた表情を見せ、俺の後ろにいる校長に目で助けを求めていた。
「……そうですね。できればこれ以上、事が大きくなる前に、自主退学してくれることを我々は望みます」
背後から聞こえてきた校長の声はとても穏やかだったが、内容は重かった。
さすがにその言葉でアタマに上った血が一気に引いた。
「じ……自主退学!?」
俺はゆっくりと校長の方へ顔を向けた。
展開が早すぎだって。事件を解決させることより退場を命じるのか。
冤罪じゃん。
俺じゃない。だから勘違いなんだって!
どうしてこの人たちは自分の立場や学校を守ることしか考えてないんだ。
問題を起こす生徒は簡単に見捨てるのか?
だいたい俺はなにもしてないのに、どうして自主退学せねばならない。
矛盾だらけだ。理不尽だ。
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2008.05.02 UP
2009.07.24 改稿