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パニ・ハプ文化祭終了後〜嵐の前の静けさ
文化祭二日目の昼食後――亮登&天空に見つかってしまった俺と愛里。
愛里にバレない程度にどついてくる亮登。たまにブツブツと文句を垂れた。
「オレが誘った時は断ったのに、何で、何で、何で……。紘貴ならいいのか? ええい、ちくしょう。何だ、このやろう! このやろう!!」
歩きながら人の足を蹴るな!
春の日差しのような天空は、
「いやぁ〜いい天気で良かったね〜」
陽気だ。
花でも咲き始めそうだ。
年中無休でこんなヤツだけど。
なごみ系だ。
一家に一人、東方天空。
まぁ、バカだけど。そのうえ、めちゃくちゃ食う。
一家に一人いたら、家計が破綻するであろう。
天空には大学進学より、就職をオススメしよう。きっと家族もそれを願ってるはずだ。
さて、そんな文化祭もあっという間に終わってしまい、四日は代休で学校は休みなんだけど、平日ということもあり、のんびり寝てもいられない。
愛里が料理ぐらいできたら……もうちょっと楽だし、休日はのんびりだらだらと寝てられるのに。
火事になりかけて飛び起きるのがオチか。
ということで、いつも通りの起きて、今日も仕事の父に朝食を作っていた。
ついでに自分のと、継母の分も。
トーストの焼き加減は……パリパリのサクサク。一歩間違うと焦げる寸前とでも言おうか。それを父と俺は二枚ずつ、愛里は一枚食べる。まぁ、愛里の焼き加減は、表面が少し焼けた程度で中はフワフワな方が好みらしい。俺的には邪道だ。
そんな感じで五枚切りの食パンは一回の朝食で消えるので、賞味期限の近い値引き品や、特売で大量に購入し、冷凍庫に保存されることも少なくはない。
おかずは定番の卵料理と生野菜のサラダ。飲み物はコーヒー。コーヒーを飲むと頭痛が起こるという愛里は砂糖たっぷりの紅茶。
いつもだいたいこんな感じ。
それを毎日、俺が作ってるんだけど……今日はいつもと違ってる気がするのは、気のせい――
じゃない。
少し離れたところからじっと俺の手元を見ている少女が一人。
「あの……愛里さん、何か用事ですか?」
あまりにも気になるというか、気が散るというか……。
「料理、覚えようかと……」
――やめろ!
と叫びたかったが、本人がやりたいと言ってるんだから、その芽を摘む訳にもいかない。
うまく伸ばせたら、俺は楽になるんだぞ。
つーか、いつまでも食事のメニューで悩んでる訳にもいかない。
よく考えてみたら、大学受験控えてる。まぁ、特に行きたい所とかないけど……そういうのを考える余裕さえも今はないと言える。毎日の食事の方が大事だから。
「じゃ、パン焼いてみて。トースターに入れて、時間は5のところ」
さすがにこのぐらいならできるだろ。
「5のところは……カリカリになるやつですか?」
「そうだよ。愛里の好みは3だ」
「ふんふん」
ホントに分かってんのか?
っていうか、パンも焼けない中卒はウチの継母ぐらいのもんじゃねーの?
――あ、しまった!
「うえぇぇぇぇん」
どこまでどんくさいんだ、アンタは!
自分好みの焼き加減にならず、吉武家男衆好みに焼きあがってしまったトーストを皿に乗せて、悲しげな表情でそれを見つめる吉武愛里。
臨機応変という言葉をあなたの辞書に書き込んでくれ。
「あのね……言い忘れた俺も悪いと思うが、温まったトースターでいつもと同じ時間でやっちゃうとマズいんだよ。そうだな……一分半ぐらい、短めで……。まぁ、アレだ。慣れだ。そのうち……」
「あい……」
悲しそうな声で返事すんな。ものすごく哀れに見える。そんなところが、かわ……。
…………。
………………。
いや、何も。
ちょっと別の方向に回線が繋がりかけたようだ。――切断。ケーブル回収。
とその時、父が新聞片手にあくびをしながら入ってきて、いつも通り朝の挨拶。
「おはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
ハキハキ感のない愛里に気付いた父は、
「あれ? どうしたのかな、愛里さん。……さては、またイジメたんだね、ヒロくん」
ちょっと待て。なぜ俺のせいなんだ! またって、今までイジメてたか?
「イジメてないって! 何で朝から俺が愛里をイジメなきゃなんないんだよ!」
俺は反射的に反論したが、これはこれで隠したようにも聞こえるんじゃないかと自分で思ってしまった。
ホントに何もしてないのに……まるで自分がやったかのように。
「違うんです、ヒロさん。あの……朝食を作る手伝いをしようと思って、パンを焼いて、失敗しただけなんです」
そう、ただそれだけでしかない。
「ホントにぃ〜?」
俺は必死に首を縦に振り続けた。
なのになぜ疑ってるような表情を俺に向ける!
自分の息子を信じられないのか! やはり子供より、嫁が一番か!
そういうの、いけないんだぞ。子供がグレる原因になるんだから!
「おや、愛里さんの持ってるパン、おいしそうだな〜。頂いていいかな?」
こんがりキツネ色な父と俺好みに焼きあがってる、愛里が自分用に焼いたパンは、父がおいしく頂いた。
その間にもう一度、自分のパンを焼き始めた愛里は、オーブントースターの前でパンの状態をじっと見ていた。
およそ二分後。チーンと甲高い音が鳴った。
愛里は硬い表情でパンを取り出し、皿に乗せて食卓へ運んできた。そしてパッと笑顔になった。
「やりました! 成功しました!」
「わー、さすが愛里さん」
手を叩いて喜ぶ父。
「…………」
なぜそこまで大袈裟に喜んで、誉めてんのか、俺には理解できなかった。
まるで愛里を待ってたように、朝食に手を付けず、見守っていた俺って何だ。
俺は大きなため息を吐き出してから、少し冷めた朝食に手を付けた。
そんな、我が家の平和な日常――
裏腹に、学校ではとんでもない事件に巻き込まれることになる。
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2008.04.23 UP
2009.07.24 改稿