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パニ・ハプ文化祭〜二日目
【2】
「ぎゃははははは、マジで言いやがったー!!」
亮登……これが終わったら倒す!
恥ずかしさをあっさり超えた怒りが俺の体を小刻みに震わせた。
いや、コイツを始末する前に、客を始末しておこう。
引きつってそうな笑顔を客に向けて――怒りはどこかにぶっ飛んで、血の気が引いたような気がした。
「……あ、の……響……さん?」
俺が恥ずかしいセリフを吐いてしまったのは、小学校から同じ学校だった、クラスメイトの響咲良だった。
それが何だか知らないけど、ぽかーんと口を開けて止まっていた。
後ろ、隣にいる彼女の友人も、コイツ、大丈夫か? とでも言いたげな表情で俺を見つめ、止まっている。
いや、止まりたくもなるよな。分かるよ。俺も止まりたい。できれば時間を戻して欲しいぐらいなんだから。
重苦しい沈黙があった後、響は首をふるふると横に振り、一度深呼吸をした。
「……ああ、えっと、ごめん。びっくりしすぎちゃった。あの吉武がそういうセリフを言うとは思わなくて……」
俺は苦笑いしか浮かべられない。俺だって自分の口からそんなセリフが飛び出したことにビックリだよ。
でもこれで、ミッションコンプリート……ってことで、心置きなく亮登をやれる。
「亮登……」
「はい?」
「覚えてろよ」
「忘れないよ、一生。「おかえりなさいませ」なのに、「いらっしゃいませ、お嬢様」って……クククク」
コイツ……泣かせて、土下座して謝らせる!
俺に背を向け、腹を抱えて笑いを堪えようと必死な亮登。とりあえず背中のど真ん中に、
「ぐぇ」
足跡をつけてやった。
その前に、営業再開、営業トーク。
「ご注文は?」
「ホットの紅茶にしようかな。砂糖は三つお願いします。ケーキはねぇ……えっと……」
砂糖三つ!? うわ、甘っ。
「いちごショート!」
生クリームとスポンジが更に甘っ!
想像しただけでも鳥肌が……。
せめて、紅茶はストレートで!
そんな思考はどうでもいい。
テキパキと仕事をこなして、次の方どうぞ。
□□□
「まさか、サクラに言うとはね〜」
「オマエのせいだ!」
当番、引継ぎも無事完了いたしまして、着替え中。
ここではとりあえず、膝蹴りを食らわしといた。
「……サクラはいい子だよ〜」
「知っとるわ!」
もう一撃。
あまり話したことはなくても、何年同じ学校にいると思ってる!?
亮登との腐れ縁よりは短いだろうが、六・三・三で十二年目だ。
「是非とも彼女に……」
「お前がしろ!」
更に一撃――そしてようやく、亮登沈没。
ホストもどき亮登、ご愁傷様です。
さて、コイツは黙らせたことだし、何も気にせず待ち合わせ場所に行けるわ。
引継ぎも難なく終えているので、着替えと(亮登の)始末が終わったのが十一時十分。待ち合わせ時間にはまだ二十分もある。
先に当日券売り場へ寄って、適当に食べ物の券を購入。それでもまだ時間がある。
特にすることもないので、生徒玄関で待って――いたが、どうも落ち着かず、校門の方へゆっくり歩いて行った。
が、そこまで行っても会うことがなく、生徒玄関の方へまた引き返した。
俺が勝手に待ってるというのに……何で落ち着かない。
考えてみれば、家族とはいえ女と一緒に文化祭なんて回ったことないし……って、
「浮かれてんのか!」
ついつい独り言。
俺は歩みを止めた。手のひらで額をペチペチ叩いて、その手は髪を掻き上げ、掴んだ。
断じてそれはない。ない……はずだ。
くそ……どうなってんだ、俺は。
アイツ――愛里が来てから、どうも今までの自分とは違う。
考えたって何が何だか自分でも分からない。だから考えることことをやめよう。俺は再び生徒玄関に向かって歩き出した。
生徒玄関まで戻ってしばらくすると、校門の方から歩いてくる愛里らしき人物を見つけた。
ソイツは俺の姿を見つけたせいか、小走りでこちらに向かってくる。
膝下まであるスカートを風になびかせ、肩より長い髪を押さえて、こちらに向かってくる彼女は――愛里だった。
俺の前まで来ると、乱れた呼吸を二、三回深呼吸して落ち着かせ、顔を上げてきた。
「すみません……お待たせして……」
それでもまだ、苦しそうだ。運動不足か?
「いや、待ち合わせは十一時半なんだから、急いで来ることないのに……」
まだ、約束の五分前。当番が終わって、俺が勝手に待ってただけだし。俺を見つけたからって走らなくても……。
「ま、少し休んで、それから……昼食、まだだよな?」
「はい」
「じゃ、何か食べに行こう」
前売りと、先ほど購入した当日券は財布に入れてある。
「やっぱり、中学とは違いますね。……模擬店があって楽しそう」
文化祭のパンフレット(?)を見ながら、彼女は言った。
本来なら、彼女は高校一年であるはず。
なのにどうして、結婚という道を選んだのだろう?
高校を卒業してからでも結婚ってできるのに、どうして十六歳になったのと同時に……?
「どうか、しましたか?」
「あ、いや……」
どうしよう。こんな所で聞くべきことじゃないと思うけど……会話、続かねーや。
「どうして高校へ行かずに結婚したのかな、って思って」
ふと彼女は視線を逸らし、歩みを遅くした。
やっぱり、俺が聞くべきことじゃなかったかな。
「……行きたくなかったんです。勉強が嫌いなわけじゃなくて……行けるものなら行くつもりでした。でも……人間関係というか、人付き合いっていうのが苦手で……」
慣れるまでしばらく、オドオドしていたような感じだったのはそのせい?
「……そうなんだ……。ごめん」
「いえ、いいんです。高校には行けなかったけど、紘貴くんや亮登くんたちに出会えました」
彼女は照れ笑いを浮かべ、俺を見上げるように顔を向けてきた。
しかし、そんな彼女の笑顔は一瞬で失われた。
「吉武? 吉武じゃない?」
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2008.04.10 UP
2009.07.24 改稿
2011.11.21 改稿