TOP > 義理の母は16歳☆ > パニ・ハプ文化祭〜二日目【1】


  パニ・ハプ文化祭〜二日目


  【1】


「じゃ、十一時半に生徒玄関ですよね」
 昨日、学校から帰って話したことを、朝、出掛ける前に確認するよう聞いてくる愛里。
「うん、そう。変なのに声掛けられてもついて行くなよ」
 子供じゃあるまいし、そんなことを言っている俺。
「ついて行きませんよ!」
 ムキになって……子供じゃあるまいし。
「分かった、分かった。じゃ、行ってきます」


 ――十一月三日、文化の日で祝日である今日は、我が高校の文化祭二日目。
 父は残念ながら仕事があり、悔しそうな顔をして出勤していた。
 たかが高校の文化祭でしかないんだが、高校なだけにとんでもないことが待ち受けているなんて、その時の俺は想像さえもしていなかった。


 午前九時には体育館に全校生徒が集まり、二日目の開会式みたいなのが始まり、それが終わると仮装喫茶の最初の当番である俺、亮登、その他六名――男女各四人は教室に戻り着替え、開店準備を始めた。
 結局、俺は親父から借りたスーツに落ち着いた訳だが、亮登は……同じく父親のものであろうスーツだが、ホスト風ということで、ネクタイナシ。ワイシャツのボタンをハンパに開け、襟を出し、着崩している。
 髪も朝五時に起きて念入りにセットしてきたという気合いの入れよう。
 首には三本ぐらいネックレスがぶら下がっていて、動くたびにジャラジャラと音を立てた。
「やっぱ、その、きっちり着込んでるのが気に入らねぇ」
 俺の姿をざっと眺めた亮登はそんなことを言い始め、
「うわ、何をする!!」
 ネクタイを外され、
「ここも、開けとけ!」
 ワイシャツのボタンを上から四つぐらい外された。
「鎖骨、見せとけ、鎖骨」
 何でだよ。
「襟も出して……」
 亮登コーディネートにされていた。
 ネクタイは奪われて亮登のポケットの中。ワイシャツのボタンを閉めたとしても……なぁ、な状態だし。微妙な格好になるだけだ。
 亮登は言い出したら止まらないんだから、諦めるしかない。
「髪、セットしてやろうか?」
「それはやめろ」
 お前がやったら後が面倒だ。
「あと……何か足りないんだよな。……あ! 首元が寂しい!」
 と言って、自分が首から下げているネックレスの一つを外して俺につけてきた。
「いらねぇって!」
「まぁまぁ、いいからいいから」
 つけられてしまったら……自分で外せません。そういうの、つけたことないから。
「ブルガリだぞ?」
「ぶる……がり?」

 ぶる――犬のブルドック。ワンワン。
 がり――寿司の脇役であるショウガ。

 そんなものが脳裏を過ぎってる。
「よし。まぁ、こんなもんか? でもやっぱ、髪型が……」
「お前がやると、ゲームキャラみたいになりそうだからイヤだ」
「……モテると思うんだけどなぁ、紘貴なら。ベースはいいのに、中身がイナカモノってのがなぁ」
「悪かったな、イナカモノで!」
「ほらそこ! 支度が終わったらじゃれあってないで、さっさとこっちの準備を手伝ってよ!」
 この当番班のリーダー的存在の女子から、怒られた。
 じゃれてない。断じてじゃれてない。
 つーか、首が重い。肩が凝りそうだ。


 十時。模擬店の仮装喫茶オープン。
 面白がって覗きに来る我がクラスの男子は、仮装組をざっと見ては大笑いしていて……具合が悪いの何の。
 その上……。
「お姉さん美人だから、ケーキは無理だから、お砂糖もう一つ、サービスしちゃおっかな〜?」
 このバカがバカだから、もう、バカ、バカ、バカ!!
「十一時には終わるからさ、一緒に回らない?」
 どうかこの幼馴染みを黙らせてくれ。

「おかえりなさいませ、お嬢様。どれになさいますか?」
「杉山……バッカじゃないの?」
 さらりとそんなセリフを口にしては、クラスの女子を呆れさせてるし。
 こっちまで溜め息が出ちゃうよ。

 教室内は混雑してきて座る場所もなくなったということで、席が少し空くまで並んでいる客を待たせることになった。
 ある意味、休憩。
 慣れないアクセサリーが首にぶら下がってるせいか、それとも緊張のせいだろうか。そう時間も経っていないのに、首と肩が重い気がする。肩を押さえて首をや腕を回して軽くほぐしていると、隣から肩をつんつんと突付かれた。
「紘貴もやってみてよ」
「何を?」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
 ――何で!!
「何か、気分いいよ、あれ」
「それはオマエが変態だからだ」
「誰が変態だ! やったことないくせに……気分、いいのになぁ」
「やらんものは、やらん。何と言われようとやらん」
 断固拒否。亮登の口車には乗せられないぞ!
「まぁ、いいじゃん。一回だけ」
「やだ」
「オレもやるからさぁ」
「散々やっただろ! もう、やらんでいい!」
「ウケがいいと思うよ」
「どこが! 悪かったじゃねーか!」
 さっきの、クラスの女子なんて特に。
「そりゃ、人それぞれだと思うよ。絶対に喜ぶ人もいるって……ことで」
 何だ?
「負けた人は勝った人の言う事を一つ聞く! 最初はグー、じゃんけん――」
 何でじゃんけんなんだ! と思いつつ、反射的に出してしまったのはパー。
「ふふふ……オレの勝ちだ」
 亮登はチョキ。俺の負け。
「で、これは何?」
「負けた人は勝った人の言う事を一つ聞く」
「聞かないって」
「おかえりなさいませ、お嬢様、と一回でいいから言え!」
「やだ」
「これは命令だ」
「オマエの命令は聞かん」
「バラすよ?」
「何を?」
「……分かってるくせに……色々、あるでしょ? 知られたくないアレやコレが……」
 ……アレやコレ?
 前にも同じようなネタで何かされたような……。
 まず、一番に思いつくのは言うまでもなく、継母。
 ここで公表されちゃたまらん。
「今日も実は……」
 まさか、気付いて? もしくは、盗み聞きしてたとか?
 不敵な笑みを浮かべる亮登。それは、勝利を確信しているかのようにも見える。
 こういう時に限って、亮登のアレやコレなネタが出てこないのはなぜだ! 焦ってるのか!?
 亮登が何を握ってるのか分からない以上、「やる」としか言えない状態だ。今回ばかりは。
 俺はがっくりと肩を落とした。
「よし、決定! 当番が終わるまでに一回はやれよ〜」
 亮登がそう言ったのとほぼ同時に、喫茶再開。
 そこからはもう、しどろもどろだった。
 あんな恥ずかしいセリフを言わねばならないというプレッシャーが……って、いや、何で亮登なんかの言うことを聞かねばならんのだ。そうだ。無視しときゃいい。
 って思うと、少し気が楽になったけど、
「吉武紘貴、十六歳少女と同棲」
 なんて耳元でこっそり言われ、ゾッとした。本当のことを言っても、誰が十六歳の継母なんて信じてくれるものか。別に同棲じゃないのに、そんな風に言われたらどうにもならん。何より、そのことだけはバラされたくない。

 もう、時間がない。
 ――次は、次こそは、次で言わなきゃ……。
 亮登なら面白がって愛里の話をしそうだし。言わないかもしれないけど、言わないとも断言できない。
 ああ、俺はどうしたらいい!!

「紘貴、大丈夫か〜? 次、女子だぞ〜」

 よし、もう、どうにでもなれっ!!

「いらっしゃいませ、お嬢様!」

 もう、死にたい。

 NEXT→ パニ・ハプ文化祭〜二日目 【2】

 義理の母は16歳☆ TOP




2008.04.03 UP
2009.07.24 改稿