TOP > 義理の母は16歳☆ > パニ・ハプ文化祭〜一日目


  パニ・ハプ文化祭〜一日目


 ――十一月二日、文化祭初日。
 薄暗い体育館のステージでは執行部のオープニングが始まっていた。
 今日は、部や授業で作った物の作品展示、教師がやってる軽食店が開いている程度で特に面白くはない。
 つまらないステージをぼんやり見ながら、出がけに言われたことをふと思い出していた。


「じゃ、いってきます」
「待って。あの……」
 玄関を出ようとした俺を呼び止めたのは継母だった。
「文化祭のことだけど……誘ってくれたのに断ってごめんなさい」
 まだ気にしてたのか?
「別に、行きたくないならいいんだけど」
「それで……やっぱり、行こうかなって……思って……」
 何で急にそんなことを?
「今日じゃなくて、明日でいいんですよね? 何時ぐらいに行けばいいですか? あと、待ち合わせの場所とか……」
 出る前にたくさん質問されても考えきれんわ。
 クラスの出し物である仮装喫茶は十時オープンだけど、三十分前から準備。最初にやって、後はのんびりするつもりで、俺は九時半から十一時の割り当てに入っている。
 残念ながら同じ考えだった亮登も一緒だった。
「あー、えっとー。帰ってから。帰ってからにしよう、それ」
「あ、そうですね。ごめんなさい」
「いってきます」
 玄関ドアに手を掛け、押し開けると愛里が俺に言う。
「いってらっしゃいです」


 さて、どうしたものか……。
 仮装喫茶で仕事中なんてとても見てもらいたくはない。
 だったら終了後に校門か生徒玄関あたりで待ち合わせにして……次の当番に引き継ぎと着替えで三十分ぐらいとして……十一時半。
 よし、明日の十一時半に待ち合わせってことにしよう。
 なんて考えてると、隣に座っている亮登が俺の袖を数回引っ張ってきて、小声で言った。
「クソ退屈なんだけど、オープニング終わったらどうする?」
 今日、どこを回るか、ということ。
 そう言われても、たいしたものもないし、見たいものなんてない。
 事前に買っている食券(?)を使えればいいだけだし。まぁ、うどんとおにぎりだけど。これを早くに使ってしまうと、夕食まで腹が持たないし……だからといって見て回るものもないし。せめて模擬店ぐらいあれば……。
 って、堂々巡りじゃねーか。
「昼まで適当にブラブラしとく」
「だよな。特に見たいものがないんだよなー。わざわざ二日に分けなくても、一日で全部やってくれりゃいいのに……」
 確かに。初日はこの学校の生徒が見て回るってだけで、ステージも面白くないし、店もないし、退屈でしかないんだよな。二日目の方が断然面白い。
 退屈なオープニングステージも、これからの退屈さを考えればまだマシに見えてくる。

 そんなオープニングも終了し、生徒が一斉に体育館から出て行く。
 ここで席を立ってもしばらく出られそうにないし、急いで出なければならないような用事もない。入り口の渋滞がなくなるまでその場で待機。
 隣の亮登は携帯を触ってその時間をやりすごしていて、ヒマです。
 周りを見回すと、三列後ろに天空が腕と脚を組んで座っていた。
 退屈しのぎの話し相手にはなりそうだな。
「天空、これからどこ行く?」
 …………。
 ??
 あれ? 返事なし? 無視?
「おーい、天空? もしもーし?」
 ……返事がない。
 と思ったら、天空の体がズルズルと横に……倒れた。
「んがー」
「寝てんのかよ!」
 ホントに、どこでも寝る奴だ。
「おい、天空! メシの時間だぞ!」
「うぇ〜? 行く〜」
 そしてこのネタで即起きる。
 しかし、体と脳がまだ起きていないらしく、天空は椅子に躓いてこけ、ガッチャンガッチャンとものすごい音を立てた。


 生徒の九割以上が体育館から退場した頃になって、ようやく館外に出た俺と亮登、天空。
「まだ昼には早いじゃないか」
 あくびをひとつして、眠い目を擦りながら天空は鼻声に近い声で言ったので、俺は皮肉っぽく言ってやった。
「そうでも言わなきゃ起きないくせに」
「それこそ、ホントに昼前でも良かった」
 また大きくあくびをする天空。放っておけば帰りまで寝てそうだ。
「って、こう、三人で校舎に向かってるけど、出し物に何か見たいのあったか?」
 と亮登。体育館を出て、何となく歩いて行っているが、渡り廊下の先は校舎でしかない。
「特にないから、空いてる所にでも入って時間潰しするしかないだろ」
 明日の準備もあるので、一日目は午後二時には終了するけど……この退屈な四時間をどうやって潰せってんだ!
 ああもぅ、さっきから同じ愚痴ばっか。


 なんとなくブラブラして、先々で会う友人から良かったパビリオンの情報を聞いてそこへ行った。
 ――良かったと言われるだけに、入るまでにそこそこ並ばされて疲れたけど、無駄に歩き回って体力を消耗することなく、昼食にいい時間になっていた。

「めーし、めーし。うどん、うどん」
 食う、寝る、部活が趣味であろう天空は、今までとは打って変わって、足取り軽く……なりすぎて、スキップなんかしている。とことんバカだけど爽やかな印象の天空でも、やっぱりそれは気持ち悪い。

 時間の関係で、教師たちがやっている軽食店は長蛇の列。
 うどんは駅の立ち食い屋のような作業――麺をゆでて器に入れ、つゆをぶっかけ、具を入れて、出来上がったものとチケットを交換、を四人の教師が流れ作業で行っている。
 毎年――といっても三回目――恒例だけど、どうにか改善すればいいのに……。
 生徒側にもそういう店を出させるとか。
 作り置き(いかにもスーパーのお惣菜コーナーに並んでいそうなもの)商品の受け渡しも、押し寄せる生徒に対応しきれてない。
 そんな列に並んで、商品を手にした頃には……四十分近く経っていて、空腹と疲労は本日のピークを迎えていた。
 わんこそばを食べるように、うどんを流し込む天空。二杯目と合わせても二分以内で完食。それから更に、おにぎりとヤキソバに取り掛かっていた。
 さすが、カレー屋とラーメン屋で激盛りを完食し、名を残しただけのことはある。
 俺と亮登が食べ終わらないうちに天空は買ったものを全て食べつくし、当日券を買いに走り――更にうどん二杯、おにぎり三個を胃に納めた。

 昼食を終えると話をしながら休憩し、午後二時――体育館への集合時間――前まで、校舎内をぶらついた。

 初日のイベント(?)は何事もなく終了し、我がクラスの教室では、明日の仮装喫茶についての最終打ち合わせが始まった。

「当番は一時間半交代ですが、最初の当番の三十分は開店準備。十時オープンです。前売りチケットが一六〇、当日券が四〇……だったかな?」
「まぁ、飲み物をコップに注いで、ケーキを皿に入れるだけじゃん」
「机も拭くのよ」
「あ、そっか」
「コーヒーはインスタントだし」
「コーヒーの分量、わかんねー」
「適当でいいじゃん!」
「適当じゃ困るのよ! コーヒーは、ティースプーン一杯よ!」
「知ってる奴に任せた!」
「それが無難だな」

 本当に大丈夫だろうか。
 なんてったって……。
 肩を叩いてくるヤツがいる。振り返ると、
「紘貴、ビシっとキメような!」
 親指を立ててこちらに向けている亮登。目が輝いている。
 コイツの狙いはあれだ。
 女、ってだけだ。
 バカだ、ホントに。
 こんなヤツと当番時間が一緒だなんて……。

 NEXT→ パニ・ハプ文化祭〜二日目 【1】

 義理の母は16歳☆ TOP




2008.03.27 UP
2009.07.24 改稿