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少年よ、大志を抱け!?
――ボーイズビーアンビシャス。
最近、某テレビCMでよく聞くせいか、何かと口走ってしまったり、ふと思い出したりしてしまう。
学校でも、昼食を終えた亮登とテレビCMの話で盛り上がっていた。
「あの犬は紀州犬?」
「さぁ。犬の犬種なんてさっぱり分からん」
「ってか、ボーイズビーアンビシャス……日本語に訳すと何だ?」
「少年よ、大志を抱け」
「へー。さすが、紘貴さま」
そういう、些細な話題から展開していく話は、時に「なんでそういう話になったんだっけ?」と考えたくなるような方向に行ったりする。それがまた、面白いんだけどね。
「少年よ大志を抱け。ただし金を求める大志であってはならない。
己の利己心のみを望む大志であってはならない。名声という浮ついたつかの間のものを求める大志であってはならない。
人間としてあるべき全てのものを求める大志を抱きたまえ……だったかな」
俺は覚えている続きも付け加えた。
すると亮登は……目を点にしていた。アタマから湯気が出るかもしれないな、これは。亮登には難しすぎたか。
「大志を……抱け?」
いつの間にか俺の後方に来ていた天空が眉をひそめ、悪い頭で真剣に何かを考えていた。
「……全てのものを求めて大志を抱け」
あ、あの、天空さん。抱(だ)け、じゃなくて、抱(いだ)け、なんだけど……。
「よし、抱いてくる!」
「お、おい、ちょ……!!」
止めるヒマなく、天空はものすごい速さで教室から出て行った。
一体、何をするつもりだ!?
「ソラがアンビシャってくる気満々だぞ!」
アンビシャってくるって、どういう言葉だよそれ。亮登語か?
「ねぇ。東方、どうしたの? すごい勢いで廊下走ってたけど……」
クラスの中でもよく天空と一緒にいる俺らに聞くのが手っ取り早いと思ったのか、響が俺たちの方に来て、聞いてきた
それを聞いて転げそうな勢いで腹を抱えて笑い出す亮登。何がそんなにおかしいのか分からないが、響の問いに答えそうになかったので、少し間があいたけど俺が答えてみた。
「大志を抱きに行くとか、何とか……」
「……なにそれ。意味不明」
響は眉をひそめ、視線を上にして考え始めてしまった。
「ボーイズビーアンビシャスを何か勘違いしたらしくて……」
「…………。東方らしい勘違いね」
とは言っても、天空が何を抱きにいったのかは分からないし、というか、何を勘違いしたのか、という方が気になって、その後の会話は響を交え、天空ネタで持ちきりになった。
……大志……。まさか、な。
昼休みも残り十分――という頃になり、廊下が急に騒がしくなった。
それが気になって廊下へ出たり、顔を出しているクラスメイトも多数。
「東方が帰ってきたのかしら?」
と、響は俺たちの所から離れ、廊下に顔を出す団体に混じった。
俺と亮登もそれを見に行こうと思い、入り口を塞ぐ人を掻き分けて出て……言葉を失った。
なぜならそこに、とある少年を抱いて戻ってきた天空の姿があったからだ。
「キャー!!」
「こら、東方! あたしたちの大志くんを離しなさい!!」
「それはできんのだー!!」
「いいから、離しなさいってば!」
「だめだ! 全てのものを求めるには、抱いておかなければならないんだ!」
「なにそれ」
「チョー意味ふめ〜」
「あの、天空センパイ、降ろしてください。恥ずかしいです」
天空に抱き上げられ、足をジタバタさせている少年――あれは天空が所属していたサッカー部の万年補欠そうな一年生のちびっこ坊や、桜井大志(さくらい たいし)くんではないか。
身長は一五〇ちょっとというウワサ。一八〇センチを超えている天空との差は三十センチ定規一本分に相当する。
容姿も顔立ちも幼く、女子生徒だけでなく、男子生徒にまでかわいがられている。校内で知らない人はいないんじゃないか、というほどの知名度もあり、我が校のマスコット的存在だと言っても過言ではないだろう。
そんな正反対な二人が、俺の目には保父さん(天空)が園児(大志)を抱き上げている姿にも見えたり……って、これはさすがに口に出して言えない。
が、思ってしまったので、必死に笑いを堪えていたのだが、天空に見つかってしまい……、
「お、ヒロ! アキ! 大志を抱いたぞ!」
やっぱり、そういうことか……。まさか、とは思ったけど、わざわざ探して本当に大志くんを抱いて戻って来るなんて、やっぱり天空だな。
「意味わかんないこと言ってないで、さっさと離しなさいってば!」
「大志くん、困ってるじゃない!」
大志くんファンの三年女子からのブーイングは容赦なく天空に向かって放たれる。
しかし、勘違いしてることも気付かず、何かにぶつかっても関係なくまっすぐ突っ走り続けるタイプの天空には言うだけ無駄というか、バカだからアタマに入っていないというか、自分のことで精一杯?
「えっと、何て言ったっけ? ミッションインポッシブル?」
――――――。
数秒、ぷっつりと思考回路が切れた。
天空にとってはある意味、勝手に任務みたいになってたけど……不可能ではなく、無意味な、の方が合ってると思う。
呆れすぎて溜め息しか出ないが、とりあえず訂正してやろう。
「ミッションインポッシブルじゃなくて、ボーイズビーアンビシャス」
「ああそうそう。それ!」
そりゃもう、もの凄く嬉しそうな顔を俺に向けてくるのだが、そのせいで大志くんファンの矛先が半分ぐらい俺に向いてしまった。
「アンタが変なことを言うから……責任取りなさい!」
「は、はぁ!?」
何で俺のせいなんだよ! 天空が勘違いしたから……いや、その前に勘違いするような話題が問題だったのか? いや、でも、しかし、だからって俺に言われても困るって!
「何だか急にモテモテになっちゃって〜」
ほっほっほ、と笑いながら亮登は教室内に歩いて戻る。
「どこが、だ! つーか、逃げんな!」
何だかじゃなくて、難なんだよ! それにモテてねぇ!
他人事のように去り行く亮登を追いかけようと思ったが、ファン一味に囲まれて文句を言われるという理不尽な状況。それは昼休み終了のチャイムが鳴るまで続いた。
「あの、天空センパイ」
「何?」
「……これって、何かの罰ゲームですか?」
「いや。少年よ、大志を抱け、という俳句を聞いたから」
「……俳句じゃないですし、意味が全然違います、それ」
「ええ!? マジで!!」
「大きな志し、の大志ですよ。まぁ、ぼくの名前と同じ字ですけど、わざとですよね?」
「――うん」
「とりあえず、離してもらえますか?」
「……そうだな」
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2009.07.24 改稿
2011.11.21 改稿