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  今頃になってふと悩んでしまう俺


 家に女がいなかった。
 だから、どう接するものか分からなかった。

「ねぇ、吉武。これ、どう思う?」
「……さぁ」
「…………そぅ。ごめんね、ありがとう」

 素っ気ない態度でしか接することができないくせに、女子を好きになったことぐらいはある。
 今思えば、それが本当に「好き」という感情であったのかよく分からないけど……自分とは違う生き物だと思っていたのかもしれない。だからどうしたらいいのか分からなくて……。
 そのせいか、好きで俺に話しかけてくるような女子は誰もいなかった。
 今まで。
 ずっと。
 誰も。
 いつも、俺の周りにいるのは、男だけ。
 バカ話をして、笑って。遊んで、帰るときに手を振った。
 ――またやろうな。
 ――また遊ぼうな。
 ――また明日!
 ――じゃぁね、バイバイ。

 俺の周りには、いつも男しかいなかった。


 それに慣れていた俺の前に現れた、継母――愛里。
 ウチにはいない『女』という人間だった。
 今まで、関わったことのない性だったから、どう接すればいいのか分からなかった。
 それでも、何とかうまくやっていこうと、自分なりに努力した。
 その結果、男友達とたいして変わらないことに気付いた。
 そりゃ、少しは発言に気をつけてるけど……人間だった。
 男、女、じゃない。
 俺と同じ、人間だった。




 二学期初日の学校は昼食時間前には終わり、自宅に帰ってもふと、そんなことばかり考えていた。
 我が家で唯一、女である継母・愛里の姿をふと見ても、クラスの女子と同じものであり、人間でしかない。特に警戒するのもでもなく、避けなければならないものでもない。

 ごく普通に付き合えばいいだけ。警戒する必要はない。同じ人間なんだから。

 そんなことを理解したのが生まれて十八年目のこと。
 休み中、知らぬ間に基礎ができていたのか、ごく自然に女子に話し掛けてる自分に、自身が驚いたぐらいだ。
 アリエネー。つーか、大丈夫か? 俺〜。


「うわぁぁん、わかんねーよー」
「だから天カスなんだよ、お前は!」
「しょうがないじゃん! 先生の声が子守唄に聞こえるんだよ」
「聞こえねぇだろ。睡眠時間、足りてないんじゃねぇの?」
「え? ちゃんと八時間は寝てるけど……」
「……寝すぎで脳がスカスカになってんじゃね?」
「え!? 狂牛病? そのうち立てなくなるのかな……」
「このヘタレ……そのアタマでよく高校に受かって、今まで留年をしなかったな」
「スポーツ推薦だから」
 え!? マジで。
 じゃなくて……。
「それなら、留年させて、常に最前線に置いておくべきだと思うな」
 なかなかヒドいな、亮登。
 じゃないって。
 なぜ、天空と亮登は自分の家に戻らず、制服のままで俺の部屋にいるのか、って話。特に亮登。お前は呼んでないし、家は道を挟んで向こう側だ。

 こういう状況になってしまったのは――遡ること一時間前。
 考えごとをしていたら、いつの間にか学校は終わってて、ほとんどのクラスメイトが教室を出た後だった。俺も帰ろうと思い、軽くなったカバンを手にしようとしたとき、追加課題をどっさり出された天空が席に着いたまま頬杖ついて空を仰いでいる姿があった。
「あの空に帰りたい……」
 名前の通り、故郷は空にあるのではないかと思わず思ってしまうような表情でそのセリフ。迂闊にも俺はただならぬ何かを感じてしまった。
 天空の姿があまりにも不憫で哀れに見えたばっかりに、俺は声を掛けていた。
「天空……さすがに手伝うのは無理だけど、分からないところを教えるぐらいなら……」
 虚ろだった瞳が、一瞬で活気を取り戻した。
「さすがヒロ! ヒロならそう言ってくれるって信じてたw」
 ……今、騙されてた? 俺。

 ということで、天空は吉武家にて勉強することになった。帰ってから来るのは面倒だし、やる気を失いかねないとのことで、帰りにそのまま寄ると言い出した。
 仕方なく了解し、教えてもらう分際で昼食付きというのはサービスしすぎな気もするが、気にしたところでどうにもならないので、無視。
 しかし、自宅に辿りつくと、
「ただいまー」
 とか言いながらウチの玄関を開けてアタマを突っ込んでいるご近所さんこと幼馴染みの亮登。
 教室にいないと思ったらこんな所に!!
 つーか、家を間違ってるって!
 俺は自転車を家の塀の前に止めて静かに玄関へ向かい……学生カバンの角を亮登の後頭部に押し付けた。
「家、間違ってんぞ、コラ」
 と、カバンの角をグリグリと更に強く押し付ける。
「痛い、いたた、痛いって、兄さん」
「誰が兄さんだ! そこをどけ。つーか、帰れ」
 しかし亮登は、頬を緩ませたままで俺の方を向いてくる。
 こいつ……マゾか!?
「や・だw アイリちゃんとお菓子食べようと思って、コンビニ寄ってきたんだぞー」
 と、手に持っている菓子で膨らんだレジ袋を見せてきた。
「置いて、帰れ。いや。持って帰れ」
「やだ」
「帰れ」
「やだ」
「か・え・れ」
「い・や・だぁ〜」
「ゴー・ホーム!」
「ゴーしてやんねぇよ〜」
 俺と亮登は押し合うばかりで引くことをしない。
 少しの間睨み(?)合っていると……俺の視界の隅に愛里が入ったので、慌てて表情を緩めた。
「あれ? ソラ……」
 亮登の表情もふと緩む。俺の後ろに天空が来たのか……。
「ソラだけズルいじゃないか! オレも一緒に遊ぶー」
 タイミング悪すぎというか、何と言うか、難と言うべきか?
「亮登、天空は遊びに来たんじゃない。追加の課題をやるために来たんだ。だから、遊ばない。さよなら」
「ああ、課題か。オレも手伝うよ。その方が早いじゃん」
 成績は赤点ギリギリで、課題はいつも写しに来る奴がよく言った。天空は再試験の常連だし、あまり変わりはしないんだけど。
「そうだね、その方が早いよね」
 とりあえず、無事に終えることしか考えてないじゃないか、天空。
「だけどその前に……」
 イヤな予感……。
「「ご飯だよね」」
 亮登と天空が声を揃えて言った。
 やっぱり……。
「大勢で食べるのも、楽しそうですね」
 おい、それでいいのか、継母! つーか、作るのは俺だろ!!

 料理担当――俺。
 昼食が出来上がるまで、ワイワイ喋りまくる三人――ではなく二人。会話は相変わらずの一方通行。
 それでも飽きず、ネタ尽きずに喋ってられることがある意味すごいと思ってしまったり。
 食事中ぐらいは黙ってるかと思えば、通常より二割ぐらいは少ないものの、その口は止まることを知らない。
 そのうえ、
「おかわり」
「オレも」
 といった感じで、タダメシ喰らいは大喰らいだったりするんだ。育ち盛りだし。
 そのせいで、俺はいつもの半分も食べれなかった。


 そんな緊張がプツリと切れると……脳裏に蘇る。
『響も自動車学校にいたよな?』

 今日は、クラスメイトの女子と初めてまともに話した日かもしれない。


「この、カラちゃんめ!」
「からっぽの空(から)って言うな!」
「天カス!」
 昼食を終えて俺の部屋。考えごとからふと現実に戻ると、亮登と天空が言い合いをしていて、
「でりゃー」
「あだー!!」
 天空が亮登を投げ飛ばし、
「ふん!」
「あだだだ、ギブ、ギブ!!」
 押さえ込んだら、あっけなく亮登はギブアップ。
「課題、やらないなら帰れ」
 俺は静かにそう言って、頭を抱えた。
「ご、ごめんなさい!!」
 天空は慌てて課題の前に着席。シャーペンを走らせた。

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2008.02.15 UP
2009.07.24 改稿