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  新学期スタート!


 長かったようであっという間に終わってしまった夏休み。いよいよ新学期のスタート。
 休み中、時間に急かされることなくゆっくりとこなしていただけに、朝の忙しさに目を回しそうになっていた。
 起床後、朝食の準備。食事が終わると片付け。その間に継母は出勤する父を見送り、洗濯を始めた。
 洗濯をせずに済んでる分、以前よりは楽なんだけど……休みボケのせいか、手順よくできてなかったりする。
 朝の家事を終えると、学校に行く準備のために俺は部屋に戻って制服に着替え、のんびりする間もなく家を出る――その前に、言うべきことを言っておこう。
「とりあえず、セールスが来ても全て断ること。いいな」
「……大丈夫です。見た目がこんなのですから、誰も奥さんだと思いませんよ」
 そりゃそうだ。
 と笑いそうになったが、黙っておこう。しかし、笑いが込み上げてくる。必死にそれを我慢しながら、
「……ああ、まぁ、行ってくる」
「はい。いってらっしゃいです」
 挨拶を交わして玄関のドアを押し開けて出ると、亮登が待ち構えていたようにそこへ立っていた。目が合った途端、ものすごい笑顔になり、俺を押し退け勝手に玄関へ入っていった。
「おはよ〜アイリちゃ〜んw」
「あ……おはようございます」
 いつも思うのだが、亮登は何時に起きて髪をセットしてるのだろうか……。きっとかなりの時間が掛かってるはず。そうでもなきゃ、朝からこんなにテンション高くならないだろ。
 ――つーか俺、行ってくるって……そんでもって、いってらっしゃい?
 急に恥ずかしくなってきたぞ、コラ!
 亮登が(相変わらず一方的だけど)愛里と話してる間に、さっさと学校へ向かうとしよう。
 自転車で通学路を、少しスピードを上げて走った。

 それから五分後、ものすごい形相で、息を荒くしつつも叫んでくる人物が一人。後方から立ち漕ぎで追ってくる亮登の姿があった。
 なのに髪型はしっかりとキープされている。あれは濃度の高い砂糖水でも使っているのだろうか。


 一学期中に慣れていたはずだけど、久しぶりの我がクラスの教室。
 肌の色が濃くなってる人、髪型が変わってる人……まるで新しいクラスに迷い込んだような気分で、イマイチ落ち着かない。
 久しぶりの再会に会話が弾んで騒がしい室内。いや、室内だけでなく学校中がざわついていた。
 俺はその中に入ることなく、さっさと自分の席につき、大きく息を吸って吐いた。
 窓から見える空は、透き通るような水色。厚みのあるフワフワな白い雲が所々に浮いていた。
「このオレを置いて行くとはいい度胸だ! どーなっても知らないからな!」
 声がした方を向くと、机にカバンを置いてすぐに俺のところに来たのか、呼吸を乱したまま、真っ赤な顔をしている亮登がいた。
「どうにかしちゃうの? 俺が苦労してやった課題……」
 写しただけのくせに。
 言われて困るような弱みを握られているという心当たりはないし……まぁ、亮登のことだから愛里のことかもしれないが……知られたところで俺に害なんてないんじゃないのか? まぁ、できる限り知られたくはないけど。
 亮登も口で言うだけで、実際にどうにかしようなんて思ってないはずだし。
 表情を強張らせるだけで何も言ってこないあたりがそれを証明しているような……?
「うぐぐ……」
 何も言えなくなって、変な声しか漏れてない。
「スギ。免許、取れた?」
 そんな俺と亮登の話に割り込んで来たのは……同じクラスの響咲良(ひびき さくら)。
 レイヤーのかかった肩より少し長い髪はツヤがよく、亮登を見上げている最中にも肩に掛かってる髪が後ろに流れている。
 ちなみに、スギと呼ばれたのは亮登――杉山亮登のこと。
 亮登同様、彼女とは小学校からずっと同じなのだが、俺はあまり話したことがない。
 確か、夏休みの最初あたり、自動車学校にいたような気がするけど、気付いたら見かけなくなって、時間が違うのかな、と思うことなくすっかり忘れていた。
「おう、ばっちりよ。本免が紘貴と同じ日でさぁ……」
 亮登は喋りながらポケットから出した財布に入っている免許証を取り出して響に渡して見せていた。
「へぇ、いいなぁ」
 彼女は首を傾げつつそれを見て、亮登に返しながらそう言った。
「え? 響も自動車学校にいたよな?」
 俺が言うと、響は亮登の免許証から視線を外し、少し驚いたような顔で俺の方を見た。
「うん。夏休みの前半は自動車学校行ってたけど……」
 間違いじゃなかったようだ。彼女は笑いながら言葉を続けた。
「仮免に十回も落ちちゃったから、辞めたの。私には車の運転って向いてないみたい」
 と苦笑い。
 結構、万能そうで、クラスの皆からも頼りにされてるって感じがしてたけど、実際はそうでもないんだな。
 と思っただけのはずなんだけど、
「結構、どんくさかったりするんだよなー、これが」
 と、響は腕を組んで自慢げに言って、頷いたりしている。
 思ったことがついつい声に出ていたようだ。
「いや、別に悪い意味で言ったんじゃないから……」
 と弁解してみたが、響は笑いながら「どうだか〜」と言って、自分の席へ戻っていった。
 ……いかん。口にしてはならんことを口にしてしまってた。
 自分がショック受けてた。

 ――が、

 あれ? 今まで、女子とこんな風に話したことがあったっけ?


 蒸し暑い体育館に全校生徒が集まって始業式――これは、かなりキツかった。
 ホームルームで委員決めと課題の提出。
「ああっ! せっかく写したのに、忘れてきた!!」
 カバンの中身を机の上にぶちまけ、椅子をガタガタと鳴らしながら、頭を押さえて立ち上がってそんなことを言ったのは……
「東方、写したとはどういうことだ?」
「いやっ、違うんです。一生懸命に……トモダチと……ですね、頑張って、あの……」
 もう、ドロドロだよ、天空。言い訳もろくにできてない。

 そして、東方天空は、言い訳を言えば言うほど、真実を喋ってしまい、天空には別の課題が追加されていた。それらの期限は九月いっぱいだそうだ。
 一方、亮登は……、
「え? ボクですか? 東方くんと吉武くんと一緒にいましたけど、分からないところは吉武くんに聞きましたが、全部自分でちゃんとやりましたよ」
 と、課題が増えてたまるかと言わんばかりの迫真の演技で難を逃れていた。

「ひどいよ、アキ……」
 天空は悲しげな顔で亮登を見つめるが、亮登は巻き込まれたくないので知らん顔。
 ヒドいやつだ。

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2008.02.08 UP
2009.07.24 改稿