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男心と上の天空――オトコゴコロトウワノソラ
「じゃ、課題一緒にやろうぜ。紘貴んちで」
「ちょっと待て、勝手に決めるな!」
「うん、いいねぇ。自校終わったら、僕も課題持って行くわ」
「待て、天空。なぜお前まで……」
「いいじゃん。友達じゃ〜ん。仲良く助け合おうじゃ〜ん。それとも、友達に言えないようなヤマシイことがあるのかな、紘貴くん?」
ヤマシイも何も……ウチには俺より年下の継母がいるじゃないか。とにかく、これ以上知られたくないっ! それに亮登が自分の部屋に呼ぶような感じで気軽に言ってるのも何だかイヤだし。
「ウチはエアコンないんだし、暑い、死ぬ〜、って言う奴がいるから、どうかなーと」
うまく話を逸らしたつもりが……、
「心配ご無用。それどころじゃなく、切羽詰まってるから」
亮登はあっさりかわした。しかも笑顔で。
今のは嘘だな。ただ単に、愛里目的だ、コイツ。
今まで、亮登は一度たりとも持って来た事がないであろう回覧板――毎度チャイムを鳴らして手渡しで持ってくる。
暑い夏なのに、今までそんなに遊びにくることもなかった奴が、用もなくほぼ毎日やってくる。
昨日、ナンパしてどーとか言ってたのに、愛里は別どころか特別。一体何を考えてんだ。
「じゃ、紘貴んち、なw」
なw って亮登……キモい。
「了解! 終わったらメールしまっす」
天空はそう言って敬礼をキメて、原簿を取りに行き……ちょうどそこにいた教官と話を始めた。
俺たちはそれから数十分――受け付けの列を並んで待たされた。
涼しかったロビー……一ヶ月通った自動車学校を出た。
本免――最後の学科試験はここじゃない場所で行われる。
もう、ここに来ることはないんだろうな……そう思いながら、駐輪場で自分の自転車のカゴにカバンを放り込み、ポケットに入れていた鍵で開錠した。
「しゅっくだーい、しゅっくだーい♪」
楽しげにそんなことを言う亮登だが……全く期待できない。
俺の解いたものを写すだけだ。毎度のことながら。
残念なことに、同じクラスだから課題も同じなわけで……亮登が困って右往左往、上往下往して、俺に泣きつくという姿を見ることはないだろう。残念だ。非常に残念だ。
今年は俺だけが損して終わりだ。
そのうえ、天空まで来るとか言ってたし。
東方天空は高校三年で同じクラスになった天然ボケキャラが売りの人物で、クラスのムードメーカーみたいな感じ。
一八〇センチを超える長身にすっきりとした体格。さっぱりとした短髪はスポーツマンらしさを強調。見た目通り、スポーツが得意で、試合前には各部から助っ人を頼まれるらしいが、サッカー部に所属してるのでだいたい断るとか。勉強の方はさっぱりダメで、再試験の常連だったりする。
家は中学の校区で言うと隣で、自動車学校のある地区に住んでいる。
二時間で組んであるディスカッションが終わったら、二十分以内にはやってくることだろう。
亮登は帰宅後五分以内。
部屋は特に散らかってないが、暑い。それだけが不満。
扇風機は相変わらずぬるい風を引っ掻き回すだけだし。
何より、亮登が暑苦しい。
「アイリちゃん、今日もカワイイw」
目を輝かせていた。課題に一つを広げ、シャーペンを片手に持っているが、問題を解く気配がない。
こっちも気が散って仕方がない。
その上……およそ二時間後。
「ね、誰あれ。妹? んなわけないか。ヒロは一人っ子だし。えっと……じゃ、お父さんの隠し子とか? いや、これはありきたりなネタか。じゃ、ヒロの彼女……って、それは絶対にないよなーっはっはっはっはっは」
天空。来て早々、テンションがやたら高め。きっと、暑さのせいで、おかしくなってんだ、コイツら。そういうことにしたい。
「カワイイだろ、カワイイだろ、アイリちゃん」
お前ら、課題をやるために来たんじゃなかったのか。
俺は二人のやりとりを何とか無視しつつ課題を進めていったが……、
「ねぇ、ヒロ〜。あの子誰なの? ねぇ、ねぇ〜」
天空は課題に集中してるフリになっている俺の顔を覗き込んできた。
……そろそろ……限界……だ。
握った拳を机に叩きつけ、二人を交互に睨みつけた。
「うるせぇ! 黙って課題でもやりやがれ! やらねぇなら帰れぇ!!」
俺の拳、肩……いや、体全体が小刻みに震えていた。
二人はハトが豆鉄砲を食らったような表情でこちらを見ていると思ったら、ころっと顔を変え、やらしい笑顔を浮かべた。
「んーもぅ、紘貴ったら〜、せっかちさんw」
「隠すことねぇじゃん。僕らオトモダチでしょ〜? 隠し事はナシにしようよ〜」
俺は口元を引きつらせながら、呆れていた。
このバカ軍団……ほんっとにバカだ! 人の話なんか砂粒ほども聞いてねぇ。
ここで天空に話すのもめんどいし、
「アイツのことなら亮登に聞け」
ヒマ人同士、話してろ。
「お? 話していいの?」
亮登は驚いて聞き返してくる。
本当はあまり知られたくはない。だけど、見てしまったものは仕方がない。ヘタに隠すのも逆に悪い。
「いや、だけど一つ条件がある」
教えるかわりの条件。天空の場合は亮登ほど心配する必要もないのだけど、俺は続けた。
「誰にも言わないでほしいんだ、この件は。どうしてかってのは……聞いたら分かると思うんだけど」
「うん、分かった。絶対言わない。三人だけの……ヒミツ?」
「今のところは、そういうことで」
愛里が何者なのか、亮登の口から語られ始めた。
「アイリちゃんは、紘貴のお父さんの奥さんで、紘貴の義理のお母さん」
まともなことを言っているので心配ないだろう。
と思うはずがない。俺は何年、亮登と一緒にいると思ってんだ。
「へー。でも……若すぎじゃない?」
「だしょ? 十六歳なんだよ。オレらより年下なんだよ」
「マジで!?」
「何が危ないって、紘貴があまりの女日照りにプチっときて、がばっと――」
「いくか、ボケ!!」
俺は、真剣に取り組めない課題を亮登に向かって投げつけた。それの角が見事に亮登のこめかみに炸裂! 亮登はバタリと倒れた。
「俺はロリコンじゃない。親父と一緒にすんな!」
「え? じゃぁ、ヒロのお父さんはロリコンなの?」
「…………」
墓穴掘った!?
つーか、俺も親父の趣味はよく分からん。分かってることは、自分より上下二十も歳が離れてる人と結婚してるってことだけで……
「知らん」
としか言いようがなかった。
言うまでもなく、二人は課題には一切手を付けることなく……
「アイリちゃん、かわいいでしょ? オレ、大ファンw」
「えっと……」
「年齢的に、高校一年ってとこだよね。何だかすごく若くみえちゃうよ〜」
「そ、そうですか?」
「なのに人妻! たまらんっ」
「……へ?」
亮登は愛里を俺の部屋に招き入れ、天空と一緒に会話というより一方的に喋り続けていた。まるで俺がイメージするヨッパライオヤジが若い女性を捕まえて、一方的に喋っているような感じ。
俺はそんな状況でも課題を一つ一つ始末している。
だけど……さすがにたまらんのはこっちだ。
シャーペンが折れるか折れないか、そのぐらいの勢いで拳も同時に机を叩きつけた。
その音で三人(正確には勝手に喋ってるだけの二人)は黙った。
ゆっくりと三人の方を向き、俺は怒りがにじみ出た低い声音で、できるだけ穏やかに言った。
「いい加減うるさい。何で俺の部屋なんだ。そういうのは下の部屋でやれ」
愛里は怯えて俺から視線を逸らすが、二人はヘラヘラと笑い始めた。
「え〜いいじゃん。おもしろいし」
何を楽しんでやがる、亮登。
「いいよね、お義母さん若くて」
思いっきりハズれてるぞ、天空!
「課題、絶対に見せないからな。写させないからな。自分でやれよ」
この一言に、二人は顔色を変えた。
しかし、愛里のことで脅されてしまい、渋々写させてしまう俺がいた。
そして、本免はイッパツでクリア! 見事に普通免許を取得した。
課題も寝る時間を削り、何とか夏休みが終了する二日前に終わらせることができた。
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2008.02.01 UP
2009.07.24 改稿
2011.11.21 改稿