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俺の運転免許は学校の課題とは無関係だった! ということは……
「聞いてくれよ、紘貴〜」
自動車学校のロビーに入るなり、ご近所の杉山さんちの亮登くんが俺にしがみついてきた。
「この前ナンパした女がね、もんのすっごーくかわいかったの。だけどね……化粧を落としたらのっぺらぼーみたいで、それこそ、妖怪? オレ、妖怪には用はないのに、もぅ、怖くって怖くって、逃げちゃったわけよ」
何かと思えば……。
「外見に騙されて声を掛けたお前が悪い。以上」
俺は亮登を引き剥がし、原簿を取りに行った。
「ひどい、ひどいよ紘貴! うわ〜ん、ソラ〜」
バカ(亮登)がたまたまロビーにいたクラスメイトの天然バカに助けを求めた。
原簿を開くと、今からある路上教習が最後であり、次は卒検を残すのみ。
夏休みはまだ一週間半残っている。
絶対に取得してやる!
最後の教習も指摘されるようなミスはない。
自分の担当ではない教官からも大丈夫だ、と言われた。
明日の朝、十時から行われる卒検――時間前には自動車学校に行き、万全の体調で挑むだけだ!
亮登みたいに緊張しすぎてミスって落ちて、補習教習なんて受けねぇぞ!
家に帰って、全教習コース頭の中で順に展開させた。
交差点では左右、後方の確認。
あの路地の速度は四〇キロ。
信号のない横断歩道でも、歩行者優先。
いや、心配しなくても、普段通りに……教習通りでいいんだ。
下手に緊張しなければ大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、脳内シミュレーション終了。教本を開いて、学科試験に備えることにした。
「あれ? 紘貴くん、新しいメニューに挑戦ですか?」
夕食を作る俺に声を掛けてきたのは継母。今日の髪型は左右の耳の上で髪をまとめていて涼しげだが、幼さ全開だ。
「新しいメニュー?」
「それ、本……」
俺が料理しつつ片手に持っている本を指差してきたので、表紙を彼女に見せ、
「これ? 料理の本じゃなくて、自動車学校の本だから」
「……そ、そうですか……。料理作りながら、熱心ですね」
愛里は肩を落とし、がっかり、といった様子だった。
期待を裏切った訳じゃない。彼女が勝手に勘違いしただけなのに……何だか申し訳なく思えてきて、
「何か、食べたいものがあるなら、早めにリクエストしてくれたら対応するから。ま、万能ではないことは補足しとく」
「分からないのでも、本があったらできますか?」
「う〜ん、たぶん」
「じゃ、今度、本屋さんで買ってきます」
おいおい、一体どんな難問を押し付けるつもりだ、この料理オンチ。買ってきた本でお前が勉強すべきだろう。
――次の日。いよいよ、卒検の日。
今日の教習車は「検定中」と書いてあるものが車の天井に乗っかっている、特別仕様だ。
ロビーには、検定を受ける人がたくさん集まっていて、その中に亮登の姿もある。
さすが二回目というべきか? 亮登は壁の方を向いて俯き、ブツブツ、何か言っている。近づいて覗き込んでみると……
「怖くない、怖くない。もう失敗しない。人、人、人、人……」
手のひらに「人」という文字を指で描いていた。緊張がピークに達している模様。
検定は教官一名と検定を受ける三人が一台の車に乗り込み、交代で行われる。
こればかりは、最初がいいのか、最後がいいのか分からないけど……俺のグループは俺が一番だった。
あ! と思うようなミスもなく、残り二人の検定も終わり――再び自動車学校のロビー。
受験者は合格発表を待っていた。
携帯をいじってる人、のんびり飲み物をすすっている人、ミスったと肩を落としている人――様子は様々だった。
開始前、緊張のあまりおかしくなっていた亮登は……今は俺の隣に座って腕と脚を組み、のけぞっていて偉そうな態度だ。
これは自信の現れか、それともヤケか。
どちらにしろ、間もなく結果が――
「本日の卒業検定、合格者を発表します」
普段は人の話し声しかしないロビーに放送がかかった。
この緊張は仮免以来か。
合格発表専用のテレビに、番号が表示された。
瞬間――自分の番号を見つけ、喜びに声を上げる人。
急に騒がしくなる中、俺は冷静にテレビ画面を見て……自分の番号を見つけた。
「よっし!」
拳を握る。
「うわ〜うぇらぁあああ!!」
隣の亮登が変な奇声(?)を発しながら、俺の肩をかなり強く叩いてきた。
「あったー、あったぞ、見ろ紘貴!」
テレビを指差し、立ち上がり、大袈裟に足踏みして喜んでいる亮登。
お前の番号なんぞ、知らんわ。
亮登が怪しげな喜びの舞をやっているので、俺は他人のフリをすることにした。
この人、興奮のあまり、見ず知らずの俺の肩をバンバン叩いてきただけですから。他人ですから。知らないです、こんな人。
なんてやってたら、手続きのために受付には列ができていた。
ここで書類貰わないと最後の学科試験が受けられないみたいだし。
とりあえず、今並んでもしばらく掛かりそうだし、バカ亮登が落ち着くまで座っておくとしよう。
「なに二人。落ちた?」
後ろから声を掛けられた。その声は聞き覚えのあるクラスメイトだ。
「ソラ〜。受かったよ、受かったよ。オレら、ちゃんと受かったんだよ〜」
「おー、おめでとー」
「「いえぃ」」
亮登と東方天空(とうぼう そら)は声をハモらせ、ハイタッチなんかしていた。
「そういうソラは、どこまで行った?」
「今日はディスカッション。めんどくさい」
「まだまだ、だな」
「夏休み中に取得するのは無理っぽい」
と言って肩を落とし、部活と試合さえなければ……とぼやいた。
「課題も全然できてないし、自動車学校行ってたら遊ぶヒマも余計なことを考える余裕もないんだよ」
え? 今、何て言った?
「いいよな、アキとヒロは」
「……よくない」
俺は天空の発言で、初めて思い出した。
「へ?」
「亮登、学校の課題は終わったか?」
「……まさか。今、初めて思い出した」
亮登も俺と同じ、免許取得のことしか考えていなかった模様。
いや、亮登はやる気などなかったはずだ。
やっべーなー。どうしよう。
「……紘貴、今から一緒にやろう!」
「冗談じゃない! どうせ写すだけだろ。一人でやれ!」
「きぃ〜っ! ちょっと勉強ができるからって、紘貴の分際で〜!!」
何だよそれ。そんなこと言われると尚更、一緒にはやりたくない。
「そこまで言われたら、余計に一緒にはできないな。……まぁ、頑張れよ、赤点ギリギリの亮登くん」
俺はカバンを肩に掛けると、亮登に背を向け受付に並ぶ列へ。
「むはっ!!」
自分一人で課題を消費しきれないと分かっているらしく、亮登は何とも言えない声を上げた。きっと、表情はものすごく不安な顔をしているはずだ。
「ごめんなさい、紘貴。何でもするから、お願いだから、一緒にやってください。成績優秀、容姿端麗な紘貴サマ!!」
それは毎年、夏休み終了直前に聞く、毎年恒例のセリフじゃないか。
だけど今回はちょっとしつこそうな感じ。
「あのさ……とりあえず、離れろ」
「やだ! いいって言ってくれるまで離れない。誤解されても離れてやらない」
何を思ったのか、亮登は俺の背中にぴったりと抱き付いてる。とにかく、かなり怪しい映像となっております。
俺たちを見る人の視線やら表情は、絶対に何か勘違いをしているものだった。
東方天空以外は。
「僕も混ぜてよ」
爽やかで癖のない笑顔の天空。
どれにだ!
課題か、それとも、今、この怪しい状況にか! その天然なセリフは何を指す!
東方天空の発言は、更に周りの視線をアツくさせた。別の意味で。
冷たくさせた、の方がいいのか?
居心地の悪い視線が俺ら――二バカコンビとプラスアルファに注がれていた。決して「三バカトリオ」ではないことを補足しておく。
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2008.01.25 UP
2009.07.24 改稿