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  大気の状態が不安定であるのと同時に俺の状態も不安定な理由


  【2】


 急に降り出した雨は、やっかいな客――雷様まで連れてきた。
 必死になって何とか自動車学校から帰ってきた俺は、年下の継母に……抱きつかれていた。
 何だか知らんが、それを受け止めてしまった俺は、彼女の震える肩を抱いていた。
 それでなくても不安定な状態だというのに、体当たりされた衝撃で大気圏を突破して宇宙に出ちゃった?
 そんな感じで、まるで傍観者のごとく冷静に見ている俺がいる。

 えっと……これ、どういうこと!?

 しばらくして突然焦りがやってきた。なにこれ! っていうか、これはどうするべきだ!?
 早く何とかしないと、心臓が口から飛び出そうだよ。
 髪の毛からは帰りに浴びた雨水が雫となってしたたりおちてるし、服は濡れて体に張り付いてるし……そんなことなんかお構いなしに抱きついてきてる彼女を、何を思ったのか、抱き、だ、だ、だ……いや、違うんだ。こう、なんというか、ドーンと飛び込んでこられた拍子に、うっかり……だな。うん、そうだ。よくあるじゃないか。学校の廊下とかで、曲がり角から勢いよく現れた女子とぶつかった拍子に、抱きとめちゃったみたいな――漫画みたいなできごと。それと同じ、同類。
 つーか、学校で実際にそんなことがあったわけないんだけど。
 高波が押し寄せてくるように、心臓はどんどん速度を上げている。
 とにかく、脳内はパニックに陥っていたり、その傍らで冷静に見てる俺がいたりで、どうすりゃいいんだ、この状況!
 大体、女に抱きつかれたのはこれが初であって、初体験とでも言おうか。ちょっとエロいぞ、それは。だから、この状況からの脱し方とか、対応の仕方とか、全然分からないんだよ。考えれるほど、冷静でもないし。
 声に出して言わない分、心の中ではギャーギャーわめくわ、言い訳してるわ。なにやってんだ、俺は!!

 ふと、彼女が何かを呟いた。
「……さん……ヒロさん……」
 とてもか細い、震える声でそう言った。瞬間、俺の焦りやらなんやら、全てが一気に冷めていった。
 彼女がここに来た次の日、俺のことを「ヒロくん」なんて呼んだからやめろと言った。
 だからと言って「ヒロさん」と呼びはじめた訳じゃない。彼女は俺のことを「紘貴くん」と呼ぶようになった。
 じゃ、今、彼女が言った「ヒロさん」は誰になる? そんなことは分かりきっている。
 ヒロアキという名の父のこと。彼女の夫である人物。
 昔から「父さんから生まれたんじゃないか!」と疑いたくなるほど母の面影はなく、俺は父によく似ていると言われてきたけど、この時ほどそれを恨んだことはないだろう。
 ――こういう勘違いは迷惑だ。それに、傷つく。
 肩を抱いていた手は、彼女を突き放していた。
「ごめん。父さんじゃなくて」
 彼女の顔を見ることなく、顔を逸らして言った。
 わざとじゃないことは分かってる。だけど、許せない。
 俺はリビングを出て台所へ行き、温水器のスイッチを入れると濡れたカバンを床に投げつけて八つ当たり。さっさとシャワーを浴びて、すっきりしたかった。

 アタマから水を浴びていると、ようやくやってきた温水が冷えた体を温める。
 ――くそっ、俺は何やってんだ!
 脳が本調子を取り戻したところで、後悔していた。
 いくらなんでも、あの突き放し方はヒドかった。彼女は家で一人、雷の恐怖に耐えていて――え? かみ、なり?

 ――ドーン

 自分がすっかり忘れていた。
 俺も苦手なんだって! つーか、こんな所でシャワーなんか浴びてて、雷が落ちたら、感電死するじゃん! ってか、ハダカで感電死なんてしたくねぇ!!
 第一発見者は――ぐあぁ!! イヤだ! 絶対にやだ! 向こうは見慣れて……なくても、免疫はあるだろうし…………。やっぱ、夫婦なんだし、親父と……いや、やめろ。それ以上考えるな。方向が違う。
 全裸のまま救急車で運ばれて、病院で……うぉあぁあああ!! いーやーだー!!!
 急ぎながらもちゃんと湯の方から止めて――
「ひゃーっ!!」
 水をかぶって飛び上がりそうになる。シャワーのままにしてたのが敗因。
 とりあえず、この浴室から出てしまえば……って、服……着替え……忘れた。
 …………。

 ――ドーン……ゴゴゴゴ……

「ひぃっ!!」
 ううっ、情けない。
 しかし、着替えがない。さっきまで着てたものは濡れてて、着替えがないからといって着れるようなもんじゃない。
 ……さて、どうするか。肝心の着替えは自分の部屋。戻るにはどうしてもリビングの前を通る。しかもドアは閉まってない。あの部屋のソファーからは階段が丸見えである。
 まぁ、とりあえず、バスタオルでも巻いておこう。うん。フェイスタオルよりはるかにマシだし。
 しかし、堂々と歩いて部屋に戻れるほど、神経図太くない。辺りをきょろきょろ、厳重に警戒中。
 階段を昇る前、ついついリビングに目をやってしまい、愛里と目が合ってしまった。
 彼女は俺に何か言おうとしたのか、ソファーから腰を上げたが――
「おまっ、ばっ……ふ、服、着てねーんだよ! 来るな、ばかーっ!」
 と、逃げるように、急いで階段を駆け上がった。
 あまりにも哀れな俺。みじめだよ。
 だいたい、今まで女子禁制みたいな家だったから、恥ずかしくて恥ずかしくて――
「ぬあっ!!」
 急ぎすぎたせいで、最後の最後の段でバスタオルを踏んで自爆。バランスを崩して前に倒れた。
 懸命にタオルを押えていたせいで床で顔をぶつけてしまい、体を起こして痛む鼻から額を手のひらで撫でていると――視線が!!
 恐る恐る下を見てみると……今にも噴出しそうだけど、それを必死に我慢して、俺を見ている愛里がいた。
「み、み、み、見てんじゃねぇよ!」
 顔から火が出そうとはこのことだな。俺は逃げるように部屋に駆け込みドアを閉める。タンスからトランクス、Tシャツ、半パンを取り出し、床に叩きつけた。
「むっきぃー!!」
 そして、じだんだ踏んだ後、急に情けなくて、悲しくて、みじめな感じが一気に押し寄せてきた。立ってられないほどのものが。
 俺は伏せて頭を隠すように手で覆った。
 アタマ隠してシリ隠さず――とは、まさにこのことか? いや、丸出しではないし、バスタオルがしっかり巻いてある。
 顔はまだ熱いままだ。

 ――ピッシャーン、ゴロゴロゴゴゴ……

「ひぃ〜っ!!」
 もう、イヤだ、こんな生活――!!


 雷に怯え、継母にハダカを見られかけて取り乱す高校三年生です、俺。
 キング オブ 情けない男です。
 彼女ができなくて、当たり前です。


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2008.01.04 UP
2009.07.24 改稿