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盆であろうと俺には休みのない毎日
【1】
人は死ぬと、大半は地獄に行くらしい。
相当いいことをしてないと、天国へは行けないらしい。
お盆だけは地獄の釜が開いて、魂は家に帰れるんだとさ。だけど盆が終わると地獄へ帰らなきゃならないんだって。
死んだら、ちゃんと白い服を着せておかないと、三途の川を渡れないんだって。
それから……他に何かあったっけ?
ああ、そうだ。死んだら、三十年間、霊界で過ごし、転生するんだって。
全部、父から聞いた話。
とある宗教に入ってる、父の母親――見たことのない祖母がよく言っていたことらしい。
父もそんな宗教で教わったの話なんて全く興味なく、聞き流していたみたいだけど、最愛の妻を亡くし、もしかしたら……と思って、幼かった俺に教えたようだ。
当時の俺も意味が分からなくて聞き流したんだけど――この時期になると、どうも思い出し、みょうに納得してたり、やっぱり興味がなかったり。
坊さんがビッグスクーターに乗って我が家に登場し、仏壇前で木魚とリンを叩きながらやたら長いお経を上げ、出したお茶を飲むとさっさと次の家へ行ってしまった。
足の痺れは毎年恒例だけど、この時期、一番忙しい職業は坊さんだろうな、なんて思ったのは今年が始めてだった。さすが、就職と進学、どちらにしようか考えるだけのことはある?
就きたい職もなく、なんとなく進学を考えている俺だけど。
まぁ、盆だと言っても俺の生活が変わる訳でもなく、普段どおりに進行していくわけだ。仕事が盆休みの父を加えて。
俺が家事をやるようになってから、父がその仕事をすることなんて、ほぼなくなってしまった。父の仕事が休みでも。俺が相当、体調が悪い時でもない限り、さっぱり動かない男になってしまったが――これからはどうでしょうか? お父様。
ヨメに、いいとこ見せてみるんかい?
「ヒロく〜ん、麦茶がなくなったよ。作っといて」
二階の自室で扇風機に当たっていると、一階からそんな父の声が聞こえた。
あのさ、俺、一応、受験生なんだから、気を遣おうとか思わないのか?
だいたい、麦茶ぐらい、自分でも作れるだろ! やかんに水を入れて、沸騰したら火を止めてティーバッグを放り込んどきゃいいじゃないか。それでも面倒なら、水道水とティーバッグを水筒に入れて冷蔵庫に入れろ! 後者は味が悪いから、自分が飲むなら前者。マズいものは口に入れたくないもんな。
とか思いつつも、一階に降りて台所へ。笛吹きケトルに水を入れてガスレンジに置き、火をつけている俺は……家事をすることが当たり前すぎて、体が勝手に動いてしまった!!
――何だか悔しい!!
と思いつつも、ガスレンジの前に座り込んでやかんが沸騰するのを待っていた。
夏場は常時運転中の換気扇だが――つけてるからって涼しい風が入るわけでもない。冬は逆に、冷たい風を室内に迎えてくれるという厄介なヤツだ。
……う〜ん、換気扇もそろそろ掃除しなきゃ、ホコリに油がまとわりついて大変なことになってる。これを掃除して、ピカピカになったらものすごく気分がいいんだよなぁ。
だめだ、だめだ、だめだ! ちくしょぅ、家事め! 俺の今の最大の敵は家事だ!
というか、染み付いた習慣とは恐ろしいものだ。
沸騰するまでの待ち時間を無駄にせず有効利用しようと言わんばかりに、俺は換気扇の掃除に取り掛かっていた。
思ってしまったら、即行動してんだよ。職業病だよ、ある意味。
外した換気扇はシンクにて泡状になるスプレー洗剤によって泡だらけにされている。あとは放置して、洗い流せばオッケー。
単純な作業なんだ。だからついついやってしまうんだ。
――ってやっているうちに、ガスレンジ付近のタイルに付着している、少々頑固そうな油汚れが目に付き、掃除したくてたまらなくなってきた。
これも先ほど使った洗剤を吹きかけて放置すべし。キッチンペーパーやラップで湿布しとくのもよし。
作業が一通り終わると、タイミングよくケトルが笛を吹いたので火を止め、手を洗ってから麦茶のティーバッグを放り込んだ。
麦茶の方は冷めるまでこのまま置いといて……換気扇、そろそろいいかな。
水で洗い流し、取れなかった汚れはスポンジを使って丁寧に落とした。
汚れが落ちたものはよく水を切って、外で天日干しにし、乾いてから取り付けるとして、次はガスレンジ回りのタイルの掃除に取り掛かった。
今回はキッチンペーパーで湿布したので、それらを使って磨き、汚れのひどい部分はスポンジの硬い方を使って削ぎ落とす。タイルの目地は本来の使用目的を終えた歯ブラシで擦り――って、しまった! 本格的に掃除を始めてるじゃないか!
ああ、今度はガスレンジの汚れが……ああ、鍋底の焦げ付きが、シンクが、電子レンジ内が、冷蔵庫内が、が、が、が!!!
なんてことをやってるうちに、夕食の準備をする時間になっていた。
俺は今日、何をやってたんだ!! 普段より余計な仕事をしただけじゃないか。
何だか、悲しくなってきた。
――父さん……今更だけど、普通に家事ができる人をヨメにしてほしかったです。
おいしい、おいしいって食べてくれるのはとてつもなく気分がいいんだけどさ……アレは妹じゃなくて、一応、継母なはずなんだけど。
相変わらず、彼女は洗濯と掃除以外の家事をやらない。いや、できない。
その辺り、どうにかしてもらわなきゃなぁ。
「ヒロくん、お風呂」
「皿洗ってんだ! そんぐらい自分でやりやがれ!!」
何のための休みだ、このやろう! こういう時ぐらい息子を労われ!
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