TOP > 義理の母は16歳☆ > 俺が思わず家出を考えてしまった理由【3】


  俺が思わず家出を考えてしまった理由


  【3】


 誕生日の次の日――朝。
 暑苦しくて目が覚めた。
 体中、汗だくで気持ち悪い。
 重い、何だか。
 体を起こして気付いた、この状況。
 半分寝ぼけていた脳が、もの凄い勢いで覚醒した。

「にゃあ゛――――――!!!」

 何がなんだか知らないけど、とにかく、叫ばずにはいられなかった。
「うぃ〜、もう朝ですか〜?」
 俺からかなり近い場所で起き上がったのが少女――愛里。
 それから一メートルも離れてない布団からも人が起き上がった。いや、真夏に布団にきっちり入って寝られることが異常だと思う。
「ヒロくん、朝からうるさい」
 父がアタマを掻きむしりながら、うざったそうな声を出す。
「な、な、な……何で俺の部屋に布団持ち込んで寝てんだよ、お前らは!」
「あー、いや、まぁ、親子三人といえば、やっぱり川の字で寝てみたいし……」
 と言って、のんびりあくびをするバカ親父。
「年齢というものを考えろ!! ――っく!!」
 思わず視界に入ってしまったそれをうっかり見てしまい、息を詰めてしまった。
 慌てて視線を逸らし、それに向かって乱暴に布団を掛けて隠したが、思春期で少年から大人になる手前の俺にとって、非常に心臓に悪かった。
「オマエは何てものを着て寝とるんだ!」
「あ、愛里さんが寝巻きを忘れたって言ったから、僕のYシャツを貸したんだけど、問題ある?」
「問題アリアリだ! 余計なものを貸すな! 普通にTシャツでいいだろ!!」
「それじゃつまんないし、女性のYシャツ姿は日本男児の憧れだろ」
「余計な憧れを抱くな! ワイセツだ!」
「ワイシャツがワイセツ……面白いこと言うな。さすが、我が息子」
 ちっとも面白くない。それに、今日ほどアンタの子だったことを呪ったこともない。
 父子の口論中も、もぞもぞと動き続けている布団――その下にはYシャツ愛里。いいから出てくるな。とにかく、黙ってろ。
 俺の願いは虚しく、その布団怪人は、布団から顔だけを覗かせた。
「お、おはようございます」
 自分が置かれている状況にようやく気付いたらしく、布団にくるまったまま顔を真っ赤にしている。視線は相変わらず布団の海を泳いだまま。
「おは……」
 よい子に育った俺は、反射的に挨拶しかけたが口をつぐんだ。
 俺はまだ、オマエのこと、認めてないからな!
「おはよう。愛里さん」
 親父は年齢に相応しくない、子供っぽい笑顔で彼女に挨拶している。
 ――が、こんな状況だ。会話が続く訳もなく、口論の再開もできない。
 何より、女がこの家にいること自体が俺にはアリエナイことだし、どうすりゃいいのか全然分からない。
「あ、朝ごはん、作りますね」
 そんな沈黙を破り、彼女は逃げるように、布団ごと俺の部屋から出て行った。
「いいねぇ。奥さんがいる暮らし」
 一人、目を輝かせ、大きく頷いている父。やはり根本からズレてる。
 よく考えてみろ。息子より若い女をヨメにするか?
 死んだ母さんが聞いたら、すぐにでも地獄に連れて行くんじゃないかと思う。まぁ、俺は実の母親のことさえ知らないけど。

 彼女――愛里のことを継母だと認めた訳じゃないけど、これで家事から解放されるんだと思っていた。
 そう、なればよかったのに……

 どこからともなく漂ってくる、焦げ臭いニオイ。
 慌てて台所へ向かうと、真っ黒な煙が天井を漂っていた。
「何だぁ、この煙は――!!」
 ガスレンジ前で振り向いた彼女は、涙目でむせている。
「ごめんなさい、目玉焼きが急激な進化をして、真っ黒に……」
「それは進化じゃなくて、退化じゃねぇのか!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 ああ、フライパンのテフロン加工が死んだな、これは。

「どーして、オーブントースターでパンを焼くだけなのに、真っ黒こげになるんだ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 アタマ下げられても、さすがにもう、これだけはフォローしきれんだろ。

 殺人的に料理ができない女だった。
 放って置いたら、そのうち家が火事になる。
 家事で火事――ってギャグにもならん。

「オマエは絶対に台所に立つな! いいな?」
「はい。ごめんなさい」
 変わり果てた食材を処理し、結局、いつものように俺が食事を作ることになる。


 その変わりに洗濯を頼んだら頼んだで、
「すみません……使い方が分からないです」
 論外。

 洗濯機の使い方を教えたら教えたで、
「ヒロくん、大変です」
 は? 今、何て言った? 一応、俺、年上だよね?
「誰がヒロくんだ!!」
「うっ……ごめんなさい。紘貴くん、大変です」
「何が?」
「洗濯機の中でものすごい音がします」
 音? 耳をすませてみると、洗面所にて起動中の洗濯機から、衣類以外のものをかき回している音がした。カラン、ガチャン――と不定期で。
 ……あれ? そういえば昨日、風呂に入った後から見てないものが……。
「……携帯」
「ん?」
「俺の携帯!!」
「ええー!?」
「オマエ、洗う前にポケットを調べてみるのが常識だろ!」
「そんなこと言われても〜」
 まぁ、八つ当たりでしかない。すっかり忘れていた俺も悪い。
 止めた洗濯機の中からは、見事に水没した俺の携帯が発見された。すでに電源は入ってない。ある意味、水死だ。
 そううるさく鳴るものでもないし、なくなったところで特に困ることもないのだが、やはりくやしい。
 無駄だと分かっていながら、電池パックを外してタオルで濡れてる部分を拭いたり、墓に入った水を出そうと無駄に振ったりした。
「もう仲良くなったみたいだね」
 騒ぎが聞こえたのか、支度を終えた父が洗面所にやってきた。
 こっちは起きてからずっと大騒ぎしてるというのに、このマイペースっぷりが疎ましい。
「仲良かねぇよ! 食い物を調理させれば真っ黒にするし、携帯は水没したんだぞ!」
「うう、ごめんなさい、です」
「まぁ、誰にでも得意なことと苦手なことがあるじゃないか。そういうのは助け合って相手のカバーをするものだよ、ヒロくん」
 ……確かにそうかもしれないが、カバーすること=普段と変わらない。一人増えて普段と変わらないって、納得いかねぇだろ。
「僕はこれから仕事に行くから、仲良くするんだよ」
「はいっ、いってらっしゃいです」
 新婚夫婦は洗面所で甘々な空間を作り上げるたまま玄関へ。
 それを目の前で見せ付けられた俺は、玄関へ向かう二人を目で追った。
 何だ、この込み上げてくる怒りみたいな感情は――。
「いってきまーす」
 出勤する父――ってことは、日中、この女と二人っきりかい! ……つーか、居づらい、この家。
 手に持ってた水没携帯を洗濯機の上へ音を立てて乱暴に置くと、どこに逃げようか考えながら、とりあえずは自室にこもることにした。


 俺の部屋の南側にある窓からベランダに出ることができるわけだが……エアコンがないから当然、窓は全開。
「……」
 ベランダをうろうろする少女I。寝転がってる方向が悪いのか、その姿がどうしても視界に入ってくる。
 洗濯が終わったから、干しているのはわかるが、
「きゃっ!! ふえ〜ん」
 黙ってやれ。それでなくても行き来する姿が視界に入って気になるというのに。
「ひゃ〜ん」
 ……アタマの中で何かがブチッと音を立てた次の瞬間、俺は勢いよく網戸を開けて体を乗り出していた。
 ――ガラピシャン!
「黙って干せんのかぃ!!」
 ご近所にも響きわたるほどの大声で彼女を怒鳴りつけていた。
「ひぃっ! ごごご、ごめんなさい」
 彼女は俺の勢いに驚き、怯えた声を出し、何度も深く頭を下げてきた。
 そんな彼女の態度に、ひどく言い過ぎたかな、と俺も反省。
「……すまん。言い過ぎた」
 で、何とか顔を上げた彼女だが、みるみる泣きそうな表情になってくる。
 これは……マズい。やりすぎた! と思ったのだが、どうも視線の先がおかしい。
 俺の顔よりちょっと上を見ている。
 頭上には、まだ湿った洗濯物が干してあることぐらい分かっている。
 ごく普通の洗濯物にすぎない。総合的にくくってしまえばその通りなのだが……我が家では見たことがない代物であり、レースが付いてたり、ピンク色だったりするんだ。俺の頭上にあった洗濯物は。
 それが、頭の上に乗っかってるような状態――俺はまさにヘンタイだ。
「あー、いや、これは、その、まぁ、たまたま、というか、事故……そう。事故だ」
 眼前に、このようなものは初めて見てしまった訳で、かなり動揺中の俺。ヘタクソでみっともない言い訳のようなものしか口から出てこない。悲鳴のような叫び声じゃなかっただけまだいいか?
「つっ……うー」
 今にも泣きそうな彼女は、手に持った洗濯物で顔を多い隠そうと――するのかと思ったら、
「きゃーっ!!」
 悲鳴を上げ、手に持っていた洗濯物を放り投げて室内に駆け込んだ。
 空を舞って落ちた洗濯物……その正体は、
「あ、俺のパンツ……」
 何だかんだで、お互い様。でも、ヒドイ扱いだな、オイ。


 昼食はやっぱり俺が作って……夕飯の支度も俺がやっていた。
 彼女がやってきて一日が経ったけど、継母というより……厄介な妹が増えた気分だった。


 あ、携帯。


 NEXT→ 俺の携帯が復活した理由 【1】

 義理の母は16歳☆ TOP




2007.11.09 UP
2009.07.24 改稿