44.5・― 夢が終わるとき Y


 夢は夢でしかなかった。
 願えば叶う夢があった。
 彼らの夢は終わり、現実へと一歩一歩、歩み出す。
 いつか夢見て繋いだその手は、今も強く握られている。


【Side:孝幸】

 はいはーい、ただいまー。帰ってきたよー、第二の故郷。
 ……あ、やべ! 俺、謹慎中だった。携帯は電源切りっぱなしだったから、どうなったんだろう、俺の処分……。どっちみち、今期いっぱいで辞めるから、退学になっても、辞めるのが早くなったってだけのことだ。そうそう、前向きに行こうじゃないの。

 暴力事件は、カノンを守りたくてやった、なんて言ったら、かっこ良すぎるけどやりすぎだよ、と父さんに笑って茶化されたりしたけど。

 駐車場に車を止め、降りると上から声がした。
「タカくん!」
 ベランダから覗いていたのはカノンだ。俺の姿を確認すると、すぐに部屋に入って行った。
 急いで階段を駆け上がると、途中――二階と三階の踊り場でカノンが立ち止まって待っていた。目には今にも溢れそうな程、涙を溜めている。
 すぐにでも抱きしめたいが、俺も二階で止まり、カノンを見つめた。
「どこ行ってたの! 心配してたんだから! 何も言わずに居なくならないでよ」
 大粒の涙が瞳から零れた。言葉の勢いから、靴でも投げられるんじゃないかと警戒しているけど。
「……ごめん、もう二度としないから」
 カノンはその場で顔を抑えて泣き出した。
「これからはずっと一緒に居るから、だから……」
 すっと大きく息を吸い、真っ直ぐカノンを見た。
「結婚しよう」

 顔を覆っていた手を離し、驚いた表情で俺を見ると大きく頷き、階段を駆け下り抱きついてきた。
 俺もカノンを強く抱きしめた……。

 もう、二度と離れない……離さないから……。





 処分、一ヶ月の停学。
 激写もやりすぎだと、厳重注意。
 そりゃ、あそこまでやられたら誰でもキレるだろ! 関係がアレだから面白がって記事にしたくなるのも、分からなくはないけどさ。まぁそのおかげでハッピーエンドなわけで、いいんじゃないの?


「はぁ〜い、激写のみなさん、ご迷惑をおかけしましたー」
 反省の色、一切なし、な態度だけど。
 停学が解けて一番に乗り込んで行ったのが、激写サークルの部室だった。
 前に来た時と同じ三人組が居たが、俺の顔を見るなり一斉に部室の角へ逃げた。おや、顔色が悪いですな。そりゃそうか。
「この度、例の妹ちゃんとめでたく婚約致しましたので、お知らせに参りました」
 おい、今「コイツ、ヤベー」って言ったのは誰だ!
「頭、おかしいんじゃね?」
 おうおう、スパっと言ってくれたね。ここでタネ明かしといきますか?
「ああ、血ィ、繋がってないの。親が再婚して、連れ子同士。義兄妹ってやつ」
 奴らが集結している、部室の隅まで移動し、部員の一人にズイと詰め寄ると、ヒィ! と情けない声を上げた。
「なので、前回の記事、誤報ってことで、撤回記事依頼したいんだけど、よろしいですかな?」
「あい、やります。やらせてください。……かかかか、顔コワイ……」
 三人組は、俺の表情を見て、まるで蛇に睨まれたカエルのように、カタカタと小刻みに震え出した。





「藤宮ー!!!」
「林田だぁぁぁぁ!!!!」

 前に逆パターンをやったような……。
 これから先の事を考えて、カノンと二人、ボランティアサークルに移籍。
 ミーティング中にちょっとイチャついてたからって、怒鳴らなくてもいいだろ!
「義兄妹愛……も……萌え〜w」
 頬に手を当て、うっとりとした表情でコチラを観察する一人の腐女子……。
 うわ、もしやターゲット変更? 作品路線も美少女ゲーにありがちネタで萌え系にお乗換え? ……古賀ちゃん、鼻血鼻血。

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