0・プロローグ
「ごめん、祐紀。私、そういうつもりじゃ……」
高校三年の秋。
ようやく念願のデートに漕ぎ着けたその日。
最後の最後で、しかも今までで最も顔が近づいているこの状況での拒絶。
俺を見つめる彼女の眼差しは、困惑と軽蔑を露わにしていた。
――そうか。最初からそういうつもりじゃなかったんだ。
勝手に勘違いして、浮かれていた自分がバカみたいだ。
――たった一度の拒絶が、俺の心を深くキズつけた。
今の自分になることで自分であることを保ってきたのに、それを否定された。
普通ではないってことぐらい、十分、分かっているつもりだった。
いや、分かっていなかったからこういう行動に出てしまったのかもしれない。
今更、後悔してももう遅い。
それから、追い討ちをかけるかのように友達からは白い目で見られるようになり、孤立。自分の居場所さえも失っていた。
もう、ここに居る訳にはいかない、ここには居たくない。
そんな思いから、大学への進学を機に誰も自分のことを知らない土地へと逃げ出した。
こんな俺にでも、いつか運命の人が現れると心のどこかで信じていた――。
俺の名前は真部祐紀(まなべ ゆうき)。
憧れの一人暮らしと、新しい出会いに心踊らせる大学生。
なんだけど、
「問題は山積みだよ、ユウキィィー」
一通り整理の終わったアパートの一室で一人、頭を抱えてもがいていた。
解決策の見当たらない迷路を彷徨い続ける俺には、人には言えないヒミツと、踏み込まれてはイケナイ領域があった。