■TOP > 紅葉−コウヨウ− > 光陽―コウヨウ―もうひとつの『コウヨウ』6
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父さんが雄飛に父親だと言えないように、オレも雄飛に腹違いの兄だと言えなかった。
きっと一生言うことはないのだと思っていた。
雄飛と出会い三十年以上経った。どいつもこいつももう、いい歳だ。
父も八十歳を過ぎ、入院していた病院で息を引き取った。死に際の一言さえも、
「……雄飛には絶対に言わないでくれ」
本当にそれでいいのだろうか。父亡き今、知るものはオレだけ。
葬式、火葬、喪主の役割は少々大変だったが、妻と息子たち、雄飛のサポートもあって何とか無事に終わった。
しかしまだ、法要や納骨となかなか気が休まらない。
しかしずっと、悩んでいた。父の言葉を尊重するか、否か。
家のリビングでテーブルに肩肘ついていると、湯気のたつお茶が出てきた。妻だ。
「やはり、雄飛さんには本当のことを話すべきです」
父の最期の言葉を聞いていた彼女にはオレの悩みはお見通しだったようだ。
そして、オレは雄飛に真実を話す決意をした。
「父さんの最期の言葉……遺言っていうのかな。それを伝えるかどうか、なやんでたんだ」
閉店時間を過ぎたガソリンスタンドの休憩室。オレと雄飛は向き合って座っている。
「最期の言葉は……自分が実の父親であることを雄飛には絶対に言わないでくれ、だ」
雄飛は驚いた表情をしながらも落ち着いていた。
「それ、言っちゃいけなかったんじゃないですか?」
「ああ、そうだ。こんな重大発表になぜ落ち着いてるんだ」
「いや、薄々、そうかなと思ったこともあったから、ああ、やっぱりそうなのかって納得できたぐらいで」
なんだよそれ。驚いてオレに兄さん! と言ってくれたりするのかと思えば、全然そんなことないし。
「ずっと、助けてもらってただけで、恩返しが何一つできなかった。やっぱり、本人の口から聞きたかったです」
「恨んでないのか? 父さんのこと」
「それは……確かに辛い時期は恨みたくなったけど、実際、その頃に助けてくれたのは……」
父さん、雄飛には真実を伝えるべきだったよ。
もっと早くに……。
【終わり】
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2013.07.23 UP