TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編5】お兄ちゃんは20歳☆【11】


  【11】


「ええっ!!」
「双子?」
「二児の父?」
 同じく驚く咲良と亮登。
「なにやら、細胞分裂の段階でミラクル起こっちゃったみたいで……」
 なんだか俺、見事にスルー?


 優里……お兄ちゃん、友達に負けたよ。

 こいつには敵わないって、分かった。

 いろいろと、勝てない、天空には。

 何だかくじけそうになった頃になって、ようやく食いついてくる。
「で、お兄ちゃん、妹と弟、どっちが生まれたの?」
 何だか嬉しかった。何でも聞いてくれ。何でも答えるよ! って感じ。
「妹、優里って名前で、愛里にそっくりで、全然父さんに似てないんだ。だいたい、妊娠のことは知らなくて、帰ってきたときはビックリしたよ。それから……」

 言いたいことを全部言い終えた頃には、亮登、咲良、天空の表情が……微妙にひきつっていた。
「ヒロ、意外とよくしゃべるんだな、知らなかった」
 最初にスルーしたから。あなたのせいですよ、天空くん。

 会場に入ってしばらくざわついていたが、式典が始まると何とか静かになる。
 テレビでたまにやってるような、新成人の暴走はなく、市長や先輩方の長くてありがたい話しを聞き……途中記憶がないけど。式が終わると自然と高校や中学の同級生が集まり、一緒にどこかに行こうって話しになる。
 まだ居酒屋とかが開いてる時間じゃないから、やはり定番のカラオケ。


 歌うやつもいるけど、久しぶりの再会だ。傍らでは近況報告で盛り上がる。
 俺と咲良を見て、「まだ付き合ってんの?」と聞かれたり。
「一週間前、紘貴お兄ちゃんになったんだぜ」
 と亮登がしゃべる。
「あの十六歳のお母さん? へぇ〜」
「吉武の父さんも頑張るなー」
 と笑う一同。しかし俺、笑えてない。亮登め……。
「東京の大学どう?」
「気合い入れてかないと、都会っ子に負けそうで……」
「田舎出身だからな」
「紘貴よりマシだろ」
 相変わらずだなと笑う。
「天空んとこも生まれたって、さっき聞いた」
「うん、そう、双子。ただ今入院中よ。そこのおかし貰っていい?」
 かわしかたも見事。
「双子? マジで」
「嘘っ、いつの間に……誰と結婚したの? 同僚? 先輩? 後輩?」
 今度は天空が質問攻め。しかし、余裕の対応。
「先輩って言えば、先輩だな。飲み物、余ってない?」
「誰だよ、嫁」
「写真見せようか? 携帯の待受にさせられてるから」
 あの嫁をついに解禁。
 天空は折り畳みの携帯を開いて皆の方に見せる。すると、彼女を知るものは呆然として驚きの声を上げ、知らないやつは美人だと言う。前者は恐る恐る聞く。
「このお方は、桜井大志くんの姉ですよね」
 なぜか敬語。天空の嫁は黄門様の印籠に匹敵か。
「うん。から揚げ頼んでいいかな?」
 天空は軽く返事。
「野球部のマネージャーだった、桜井伊吹さ……様、だよね?」
 俺の記憶が正しければ、野球部だったやつも、なんだか恐る恐る。去年の夏、天空の家に遊びに行ったときに初めて会ったけど、威圧感とかあったな。現役の頃もすごかったことが伺える。
「うん、そうだよ。ポッキーゲーム、誰かやってみてよ。意外なところでカップル誕生するかもよ」
「いつそんな関係に!」
「何を血迷ったか!」
「あの方の恐ろしさは、東方もよくわかってるだろ!」
「え、もう高一んときから付き合ってたし、全然普通だよ。殴られたり叩かれたり、突然おとなしくなって甘えてきたり……普通に恋愛してたんだけどね、これでも」
 一度にすべての質問に答えた。
 俺と亮登は前に話を聞いていたから驚きはしないし、あの暴力的なところは昔からのものなのかと納得してしまう。
「うそだ! そんな雰囲気なかったじゃないか」
「一緒にいても、誰も気付かなかったじゃないか!」
 確かにそうだ。大志くんが口を滑らさなければ、一生気付けなかったかもしれない。
「吉武と響はわかりやすかったのにっ」
 身近なカップルに飛び火。
「受験の大事な時期に余裕こきやがって、後ろから何度首を絞めてやろうと思ったことか」
「それはすみません」
 今だから言える、あの頃の話。
「薬学部って六年なんだろ、まだ長いな」
「うん。でも、またあっという間だよ。今までがずっとそんなんだったんだし」


 今のこと、昔のこと、他愛ない話。時間はあっという間に過ぎていく。
 二次会、三次会と進むごとに人数は減っていく。
 俺もさすがに三次会で離脱した。
 またいつか会おう。何年後か同窓会やろうって、約束を交わして。


 明日が祝日、成人の日。
 のんびり、帰ろう。咲良と一緒に……。




 ――一月十日、月曜日。
 成人の日。祝日。
 朝、早く起きて朝食を三人分作る。
 父さんは普段通り仕事に行った。
 何かを訴えて泣く妹。
 それが何かわかる継母。
 そんな母子を見て、思わず笑みが零れてしまう兄……俺。

 持って帰る荷物を玄関へ置いておく。
 愛里が俺を探す声。返事をすると部屋にやってきた。
「紘貴くん、帰るんですか?」
「うん、前から言ってたじゃん。学校始まるし、帰らないと」
 愛里は少し悲しげな顔をした。
「大変な時期なのはわかってる。できれば家事ぐらいしてやりたいけど……」
「わかってます、わかってるけど……」
 愛里の目にじわじわと涙が溢れてくる。
 困ったな、こういう時、どうしたらいいんだろ。俺と彼女の関係は、血の繋がりはない家族。
 大切な、家族の一人。
 部屋の入口で立ち尽くしてる愛里の前に立つ。手を伸ばして頭を撫でてやると、愛里は泣き出してしまった。
「頑張ってよ、お母さん」
 泣きながら、愛里は大きく、何度も頷いた。


 それから、咲良と連絡をとり、新幹線の時間を決め、それに合わせて家を出る。
「また、春か夏に戻るから、その時は連絡する」
「はい。……いってらっしゃい」
 いってらっしゃい? 少し変な感じもするが、
「行ってきます」
 と返事して、玄関を出……
「アイリちゃん、オレ、今日東京に戻るけど、元気でね。たまにはメールぐらい、メアド、教えてくれる?」
 亮登。やはり、バカだと思った。
 亮登も荷物を持っていたので、俺と同じくバスで駅に向かうのだろうと思い、引っ張ってバス停へ向かった。

 親に送ってきてもらってた咲良と駅で合流。切符を買い、改札を抜けると行き先の違う亮登と別れる。
「またな、紘貴、咲良。元気で」
「お前こそ、元気でな」
「バイバイ、スギ」
 余計な言葉はいらない。
 たまには連絡しろ、また地元に戻ったときに会おう。

 下りのホームに俺と咲良。上りのホームに亮登。先に下りの新幹線がやってくる。
 向こうのホームから亮登が大きく手を振る。俺も手を振っていると、間に新幹線が滑り込んできた。
 咲良と一緒に乗り、空いている席についてため息。
 この冬休みは、あっという間だったけど、すごく濃い二週間だった。
 動き出す新幹線。
 また、向こうでの、当たり前になった生活が始まる。でも、少しだけ違うかもしれない。
 咲良の左手に光る指輪。その手をそっと握ると、咲良は顔を上げ、嬉しそうに頬を緩ませる。そして、寄り添ってくる。


 ふと窓の外を見ると、上りの新幹線とすれ違った。


  【END】

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2011.12.22 UP