■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編4】彼女は中学2年生☆【8】
■8−裕昭
「……好きです、裕昭さん」
そう聞こえた気がした。いや、確かに聞こえた。
心臓をギュッと掴まれたような胸の痛みの後、血液が沸騰したかのように体が熱くなる。
ドキドキしてる。不整脈か?
分かってる、けど、いいのかな?
少し身体を離すと、愛里が僕を見上げてきて、更に心拍数上昇。
ついでに高血圧になるかも。健康診断では、きわめて健康と言われてるけど。
もう、自分でも冗談で済まされないみたい。
愛里の頬を優しく撫で、その手で髪を梳きながら顔を近づけ、そっと口づけた。
「僕も、君が好きだよ、愛里」
どれに対する驚きか分からないが、愛里は目をまるまるさせていた。
もう、異性を好きになることなんてないと思っていたのに……。
でも、そういう人と出会えたのだから、幸せにしてあげたい。
この歳の差も、僕に与えられた試練なのかもしれない。
交際は順調だった。
学校で愛里が傷つくこともあったが、話を聞き、どんなことがあっても、僕は愛里の側にいると、抱きしめた。
いつからか、愛里が僕のことを「ヒロさん」と呼ぶようになり、息子を「ヒロくん」と呼ぶ僕としては、少々ややこしいなと思っていた。
春がくると、紘貴は高校二年生、愛里は中学三年生になった。
例のいじめっ子たちとはクラスが別れたようで、学校への抵抗が少し軽減されたようだ。
愛里の誕生日を聞いたときはさすがに驚いた。ヒロくんの誕生日の前日、八月二日だなんて。
その頃、家では……扇風機を陣取り、僕が勤める大型電器店の広告を見ながら、僕に聞こえる大きな独り言を漏らす息子。
「食洗機、いいなー。欲しいな」
多分、誕生日に欲しいと、遠回しに言ってる。
去年は、「洗濯機は勝手に洗濯をしてくれるけど、干す時間がない」とか言ってドラム型の洗濯乾燥機を買わされた。
ヒロくんが忙しかったり、雨の日が多い月は電気代が跳ね上がってびっくりしたものだ。でも、そのおかげでタオルが生乾きでイヤな臭いを発さなくなったけど。
で、今回は皿を洗う時間さえももったいないと思い始めたのか。あれだけ家事をこなしながら、成績は学年主席。高校時代は中の下ぐらいの成績だった僕が言えることはなにもない。……しかし、高いな。せっかくのボーナスなのに、売り上げに貢献か。
ヒロくんは単純でいいけど、愛里は……どうしよう。
指輪はまだ早そうだし、ネックレス……いやいや、違うな。じゃ、えっと……。
八月二日。愛里は十五歳になった。
女性が結婚できる歳まで、あと一年。
……いつの間にか、そんなことを考えていた。
その日は一緒に食事をして、ブレスレットをプレゼントした。
ピンク色の石……ローズクオーツと水晶の数珠ブレスレット。僕も違う石の数珠ブレスレットを左手首につけた。
すごく喜ばれて、こっちまで嬉しく、幸せな気分になった。
八月三日、息子の紘貴が十七歳になり、同時に妻を亡くして十七年が過ぎた。誕生日プレゼントは去年の乾燥機付きドラム洗濯機に引き続き、家事の味方食器洗い乾燥機。とても、思春期の少年が欲しがる物とは思えないのだが、
「ありがとう、父さん」
普段は絶対見せない、眩しい笑顔だった。
愛里からのメールで、しばらく家にいなかった愛里の父親が帰ってきたことを知った。
あの親とは一度、愛里をどうするつもりなのか話したかったので、ヒロくんに「ちょっとドライブしてくる」と嘘をついて、家を出た。
愛里の自宅。チャイムを押すと、母親が出てきて、僕の顔を覚えていたらしく、愛里を呼んでくれた。
「どうしたんですか?」
驚いた様子の愛里。
「どうしても話したくて、来た」
「え?」
「愛里の両親と、愛里のこれからのこと」
お世辞にも、片付いているとは言えないリビングに通された。
真ん中に背の低いテーブルに、愛里が出してくれたお茶が三つ。僕を基準に、右側に母親、左側に父親、右後ろに隠れるように愛里が座る。
愛里の父親と母親は一度も目を合わさず、家族の温かさというものが感じられない。彼女の言う通り、ただの同居人がここにいる。
「愛里さんは中学三年生、受験生です。進学のこと、ちゃんと考えてますか?」
両親は興味なさそう。
「離婚しようと思ってんの。愛里が中学卒業したら」
「え?」
「好きにしたらいいんじゃない」
「ちょっと、待ってください。真剣に……」
愛里が後ろから服の袖を引っ張ってきた。愛里の方を向くと、首を横に振った。
何を言っても、無駄だと。
この人たちが愛里のことを何も考えてくれないのなら、僕が……。
「せめて高校を卒業してからと思っていましたが……愛里さんと結婚します」
「へ?」
「愛里を引き取る件で、話が平行線なの。ちょうどよかったわ」
さすがに僕も、この親を殴り倒したくなってきた……が、我慢。
「あなた方が離婚されるのは勝手です。でも、愛里さんが十六歳になる日までは、この家にいさせて下さい」
あの親、一緒にいるだけでストレスになる。父親は一度も口を開かなかったし。自分のことさえも何一つ聞かれなかった。どれだけ無関心なんだ、あの人たちは。
家を出て、路上に停めた車にもたれてしゃがみ込んだ。
「ヒロさん……あの」
心配そうにのぞきこんでくる愛里。
「ごめんね、突然で」
愛里は横に首を振る。
「君を、必ず幸せにするよ。だから、もう少し……十六歳になるまで待って」
「うん」
「十六歳になったら、僕と……結婚してください」
「はい」
愛里は僕にしがみついて泣いてた。
「高校、行きたかったら行ってもいいよ?」
愛里は首を横に振った。
「……わかった」
中学を卒業してからしばらく、時間があるな。何か考えとかないと。
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2012.01.10 UP