■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【71】
71 それから……これから……
「って感じ」
高校を卒業して、それぞれの道を歩む友達と久しぶりの再会。
就職一年目の夏のある日曜日。高校時代、仲良くしてもらってた吉武紘貴と杉山亮登が僕の家に遊びに来ていた。来て早々、バレてからずっとうやむやにしてきてた彼女の話をしろなんていうから、長々とさせられていて、気付けばずいぶん陽が下がっていた。
「……へぇ」
「ただのバカだと思ってたのに、影でこっそりそんなことを……」
二人は部活もやってなかったし、学校が終わったらすぐ帰宅してたから、それでなくても知らないこと。
「で……」
まだ家族しか知らないことを、友達に初めて話す。
「近いうちに結婚することになって……」
「え! マジで!!」
「早いって! オレなんかまだ……」
彼女すらいないのに……と腕で顔を隠し、泣いてるフリして肩を震わせているアキ。
ホントに相変わらず。二人とも高校の頃からちっとも変わってない。
相変わらずハネさせてる髪の毛が特徴で、格好はオシャレなくせにモテないツッコミ人材、亮登。
一年前から人当たりがまるくなってきた気がする、世話好きそうな紘貴。そういえば、響は元気なのかな? 幼いママさんは元気かな?
「そういえば、響は元気?」
「え?」
僕の話ばかり聞いててそっちの話になるとは思いもしなかったのだろう。ヒロは驚いて目を見開いたけど、すぐに答えをくれた。
「うん、元気すぎるぐらい元気だよ」
何だか自分がその元気に振り回されてるとでも言いたげに聞こえなくもない。
「ま、彼女らしいよね」
そういう人だから。二年、三年と同じクラスになったけど、いつも女子に囲まれてたし。
「ママさんは?」
「ママ? ……ああ、愛里? んー、まぁ、ようやくまともに料理ができるようになったみたいよ」
確か、料理ができなかったんだよね。いいことじゃん、進歩してて。
ウチの伊吹さんは家事とかだいたいできても、拳だけはやめてくれないから。こっちの体がだなぁ……もう慣れてるけどさ。
アキ……。
…………。
……。
「アキ、頑張れよ」
彼女がいないことはわかってたから、もう、言うことが見当たらなかった。
「スルーされるのとそう言われるの、どっちが楽なのかって考えちゃったよ」
答えは、どっちもイヤとしか思えないらしい。……だよな。
――コンコン。
ドアをノックする音。しかしドアは全開だから、こちらを興味津々な表情で見ている伊吹の姿は丸見えだ。
「そろそろ、ヒマ」
友達が来たからって一階のリビングで妹の話し相手になったままだった彼女は、よそいきの笑顔で僕に言うけど、実際、かなりの怒りを溜め込んでいるであろう。
「妹さん……えらく大きいねぇ」
「違うって分かってて言ってるだろ!」
「モチのロンで」
微妙ですよ、亮登さん。
「ってことは……彼女が彼女で、大志くんのお姉さん?」
マジメな問いではあるが、何だかヘンなのは驚きが混じってる発言ですよ紘貴さん。
「桜井伊吹でっす☆」
彼女は後輩に向かって、右手をじゃんけんのチョキにして目元で構えるというギャルっぽいキメポーズを取っていた。
…………。
「似合わねぇ……」
心の声をついつい口から発してしまい、反射的に飛んできた伊吹に僕はぶっ飛ばされてた。
「自分でもキモっとか思ったっつーの!!」
「だったらやめとけ!」
「そうはいかんだろ! 最初の印象が大事なんだぞ!」
だったら最悪だよね、もう。
これはさすがに言えなかった。言ってたらたぶん、息の根が止められてたかも。
そんなやりとりに高校時代の友人はぽかーんとしていた。
今に始まったことじゃないんだよ。ずっとこんなんですよ、ええ。
「これが普通だから、気にしなくていいから」
「普通じゃないって……」
「でも、天空にはもったいない美人だ!」 とアキが興奮気味に。
部屋に伊吹が入ったところで、
「そろそろ結婚しないと、後頭部をしこたま殴られて撲殺されたあげく、証拠隠滅のために山に捨てられそうなので、近いうちに結婚することを仕方なくキメ――」
冗談で言ってるのに伊吹は容赦なく僕の頭をいた。
「……冗談だよ」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ!!」
「ま、こういう人だけど……」
「ち、ちが、違うのよ!」
知らない後輩にいいツラしようったって、今更遅いよ。もう何を言っても、二人の表情は苦笑だ。
ま、そんな冗談はさておき、訂正し改めてアキとヒロに結婚の報告をした。
「これからどうするんだ?」
アキが珍しく真面目な質問をしてくる。
「ま、まだいろいろと頼りないから、結婚してもしばらくこの家にいるつもり」
が、頼りないの部分を別の意味に捉えてしまった二人の視線は伊吹へ。
「いや、そちらではなく、僕の収入とか人間的な部分だよ」
と補足。伊吹は……家事ぐらいならだいたいできるし。二人だけで生活していくのには問題ないけど、伊吹はまだ大学生だし、やはり僕が、って話。
「式は家族だけでするつもりだから……また電話かメールで連絡するよ」
懐かしい再会もあっという間。
月日は流れ、
高校を卒業して二年目の五月、伊吹の妊娠。これを期に、彼女は大学をやめた。
七月に僕は二十歳の成人になった。
張り裂けんばかりの巨大な腹で、伊吹は二人も育て……一月、双子の男児が生まれた。
成人式。
久しぶりに再会した高校のクラスメイトたち。
双子の息子が生まれたばかりの僕はようやく妻となった伊吹の存在を明かす日がきた。
「野球部の鬼マネ!!」
当時、野球部員だった十川、神田橋、椙本、とばっちりを食らったサッカー部員新藤はただただ青くなり、一歩引いた。
……携帯の待ち受け画面の画像でさえも、印籠効果。スゴイよ、伊吹さん。
【終わり】
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2012.04.03 UP