TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【9】



  【9】


 金曜、土曜と抜け殻のように過ごした。テストの結果は……散々だろう。後日、母の小言を空返事しつつ聞き流し、冬休みを賭けた追試を受けることになるだろう。
 日曜は突然電話したり、アパートに行ったりしたい衝動を必死に押さえ込んだ。
 貴子さんは仕事があるから休んでる時間。学生の感覚で気軽に行けない、行ってはならない。なにより貴子さんは看護師という大変な仕事をしてる。責任だってある。
 僕もこういう時ぐらい自分のことをしよう。追試に向けた勉強でも……冬休みのために。

 不思議と、先週より気持ちに余裕があることに気づいた。

 そして月曜日。いつもより早く目覚めた。午前六時半、外はまだ暗い。
「おはよう」
 いつもより早く一階のダイニングに登場した僕に、弟は顔色ひとつ変えず、無愛想どころか眼中になし。母は僕の分の朝食準備に取り掛かる。
「今日はやけに落ち着いてるわね」
 ここ数日の抜け殻のようなどんよりモードのことだろうか。
「なるようにしかならないって分かったから」
「裕昭があんなに落ち込むんだから、テストはひどいんでしょうね。でも、開き直りはよくないわ。追試に向けてしっかり勉強しなさい」
 別にテストの結果ごときで落ち込みはしない。
「……やってるよ、勉強」
 やってるけど、冬休みを守るためだ。
「フン、これはこれは、今日は雪でも降るかな。早めに出るよ」
 弟の分際で、一言も二言も多い奴だ。こんな奴としゃべるだけもったいない。だから睨みつけてやったが、余裕のある皮肉じみた顔。そのまま席を立ってどこかに行った。
 ……あー! ムカツク!!
「はい、朝食」
 弁当のおかずの残りと目玉焼き、ウインナー、食パン、コーヒーが並んだ。
 母は兄弟のいがみ合いに興味なし。介入してくるのは、たまにひょろりと帰ってくる姉だけ……。今頃どこで何をしているんだか。

 通学途中までは他校の女子がちらほら視界に入るが、学校に到着すると男だけになる。教室にもほら、モテない男が理想の女を語り、妄想に盛り上がっている。遠慮はいらない、なぜなら女子がいないから。
「今日のエロ本当番、誰だっけ?」
 朝から遠慮のない会話が炸裂している。
 いつからか、誰かが調達してきたエロ本を回覧するようになり、その日持って帰るやつのことをエロ本当番と呼ぶようになった。まさに、男子校だからできること。
「今日が間仲(まなか)で、次が室積(むろずみ)、吉武、若林(わかばやし)で赤城(あかぎ)に戻る」
 なぜか出席番号順。だからだいたい最後の方。
 そうか、明後日には当番か。持って帰るの結構プレッシャーなんだよな。親にバレたらいろいろ困るし、没収されたりしたらみんなからすごい責められるし。まあ、平日でよかった。……よかった、のか?

 そして、テストが返却され、全科目追試宣告を受けた。
 追試は木曜の放課後。


 通常どおりに学校は終わる。部活動組は放課後も学校に残り、帰宅組は学校から出ていく。女子がいれば、多少むだに放課後残るやつもいるだろうが、以下略。
 家に帰り、テストのために暗記をする。全く同じテストで追試すると言ってたから、かなり点は取りやすいだろう。
 何とか無事に冬休みを迎えられそうだ、たぶん。
 暗記力に……全然自信がない。興味がないことだから余計に。
 ……だめだ、不安になってきた。



 火曜日。この日も通常どおり。
 授業内容が二学期の復習みたいな感じで、テストが終わり、冬休みを控える生徒にやる気などある訳もなく、教室は普段よりざわついていた。
 僕も赤点テストを自分の力でやり直しをして、正解したものをしっっっかりと暗記するつもり、だ。
 次の英文を読んで……よ、よ、読めるかっ!!


 本日も授業終了。
 今日もさっさと帰る。そして六時に、やっと電話できる。
 ……ん?
 今日の朝までが仕事。今はアパートで休んでる? むしろ居るはず。明日、水曜は休み。
 今は四時をちょっと過ぎたところ。もしかしたら、少し会えるかも?
 よし、とりあえず電話だ。確か学校近くのスーパーにボックス電話があったはず。
 残り少ないテレホンカードの残度。むだに貯めてきた十円玉が、いよいよ役に立つ日が来たか?
 六桁の電話番号、間違えずに順番通りに押していくと、呼び出し音。三回で応答があった。
『はい、羽野です』
 いつもと声のトーンが違う。何だか慌てたような感じ?
「裕昭です、今から……」
『裕昭くん、今から少し、会えない?』
 遮られたあげく、僕が言おうとしたこと、全部言われた。
「よかった。今から行こうと思って、一応連絡したんです。今から、すぐに行きます」
 自転車のスタンドを蹴ってまたがると、全力立ち漕ぎで貴子さんのアパートに向かった。


 手も握れなかった僕が、むしろ逆に押し倒されかけるほど奥手な僕が、キスだって、ついこないだ、初めてしたような僕が、
「貴子さん……」
 アパートの玄関に入った途端、貴子さんを、抱きしめていた。当然、女性を抱きしめるなんて、初めてだ。

 話すことなんてやっぱりなかったけど、隣に座る貴子さんの手をずっと握っていた。肩に頭を寄せてきたから、顔を覗き込むと目が合った。……彼女が僕にキスをした。だから肩を抱き寄せた。
 ただ、互いに好きだから、一緒にいられるだけでよかった。
 会話なんてなくても、心は通っていた。


 そして今日も、別れの時間がやってくる。
「明日、学校が終わってから来ていいですか?」
「……うん、待ってる」
 僕をまっすぐ見つめる瞳。キスをして、抱きしめる。
「じゃ、また明日」

 離れたくないのに、今日も僕は家に帰る。



 水曜日。学校で擦り切れて薄汚れた大きな茶封筒を渡された。
「はい、回覧。確かに渡したぞ!」
 クラスメイトの室積はとってもいい顔で渡してきた。
 ……こ、これは、もしや、まさか、そうだった! 本日、エロ本当番!?
 すごい悪いタイミングで回ってきたな……。いや、いいタイミングか? いやいや。

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2012.02.09 UP