夏の特別学習〜海は広いな、大きいな
無名クソサイトにアクセス数が少ないのと同じで、我が捜査一家サークルに新入部員が入るはずもなく、いつもの五人組(とマイちゃん)は更なる交流を深めよう、ということで市内の海でバーベキューをすることになった。
ヨメを連れてきた小多朗は、そうとも知らずなれなれしく声を掛ける充に容赦ないコブラツイスト。そして――
「うぉらっ」
――ごしゃっ。
バックドロップ。頭の半分が砂浜に埋まるほどの破壊力。運が悪ければ『ごきっ』という鈍い音と共に絶命していたところだろう。
それにしても、体が柔らかいうえに力持ちだな、小多朗。いや、コイツなら何でもありえるから特に驚く必要もないか。
くたばっている充はそのまま放置して、エンジョイ海水浴!
太陽の光を反射して、きらめく海水。
砂浜には水着ギャル。露出し、汗と海水で濡れた肌がまぶしい。ああ、まぶしすぎて何も見えないっ!! 非常に残念だ。この真っ暗にされた視界が。
「だぁりぃぃぃいいいん」
だって、なぜか『だ〜れだw』と言わんばかりに後ろから目隠しされてるんだも〜ん。
いや、怒ってるけどね、後ろにいる彼女ことマイちゃん。
俺だって男なんだ。その辺りは配慮してほしい。目の保養も年に一度ぐらい許してくれよ。
「マイちゃん、スネるです!」
「スネるなよ。かわいすぎて場所を選ばずちょめちょめしちゃうぞ」
「……いやぁ〜ん、えっちぃ……ふっ!!」
あ? ふって何?
俺の目を覆っていた手の力が抜けたのでそっと外し、マイちゃんの方を見ると、やけに真剣な顔で何かを見ていた。
気になってその視線を追うと――高校生ぐらいの男子が二人で話しながら浜へ上がってくる。ビーチボールを持って。
「……や、焼けた肌、無駄のない体、若さ、それゆえの過ち。ひと夏のイケナイ恋。……う、うふふふふふ」
いかん、変な方にスイッチが入ってるぞ!
「萌えた夏――、キター!!」
叫ぶな――!!!
「萌えつきて、夏――!!」
「やめろー!」
「萌えたぎる夏――!!」
「ええかげんにせぇ――!!」
「……だーりん、ウルサイ。萌えないごみの日に出すよ?」
ひっ、ひどい! 俺には水着ギャルを見せてくれないくせに!!
しかも普通に喋ってるってことは、怒ってらっしゃるようで……。
言うまでもなく、ネタ帳を広げたマイちゃんは、ものすごい勢いでネタを書き出す。
その間は話しかけても無視されるか怒られるだけなので、とりあえずビーチパラソルが影を作っている場所で横になった。
あ〜つ〜い〜。
しかも、く〜る〜し〜い〜。
体も動かない。
しまった。こんな所で寝てしまって、熱中症に!? ヤバい。ヤバすぎる。
誰か……救急車を――
――ん?
目を開けると、頭以外を砂で埋められていた。なぜか股間あたりにビール瓶が置いてあるのは仕様か。
誰かが俺を見下ろしているけど、逆光で顔はよくわからない――けど、その海パンの柄は小多朗!
はっ!! まさか、これは……毎度のことながら、罠にハマった後か!
「ぐっもーにん、みのんちゃん。気分は悪くないかい?」
目覚めにこの状況、しかも小多朗が側にいること自体が、
「気分悪すぎ」
「そう言える元気があれば問題ないね。じゃ、始めようか、みなさん」
「え?」
俺の周りに集まってくる人――本日の参加メンバーだ。
何やらクスクスとか小さく笑う声ばかり聞こえる。
やはり、何か企んでやがる! しかも、全員が!
「黒ヒゲならぬ、みのんちゃん危機イッパツゲーム!」
「「わ〜」」
もの凄い盛り上がりっぷりだ。
で、何をされるんだ! ものすごい危機感。しかし、あまりにも大量の砂で埋められているので身動きさえできない。
「ルールの説明をしますね〜。黒ヒゲ危機イッパツゲームに倣い、埋められたみのんちゃんに棒を突き刺していきます。
うまく飛び出させた人が勝ち! 今日の王様」
王様ってなんだよ。それより、突き刺すって、
「待たんかい! 危ないだろ!」
「大丈夫、大丈夫。子供じゃないんだから、加減ってものを知ってるよ」
お前が一番危ないよ、小多朗。
「じゃ、順番決めじゃんけん――ほいっ!」
負けただの勝っただの声が聞こえる。
じゃんけんが終わると順番に並ぶみんな。
手に何かを持って……それは、砂浜に落ちている木とか竹の棒じゃないか!
本当に突き刺すのか!!
「じゃ、一番、天城暁――いきます!」
――ざく。
「ぐっ!」
アカツキの刺した棒が右腕をかすった。
「ちょっと、これ、痛いって!」
「二番、マイマイがやりますぅ〜」
――ざく。
「おぅ!!」
ヘソに入った、ちょっと痛い!!
「ごめんね、稔くん」
お、奥さんまで……。
――ざく。
……奥まで刺さなかったので、どこにも当たらなかった。
「四番――」
――ざく。
「あたっ……痛いって!」
五番。
――ざく。
「ぐばっ!!」
六番。
「日頃の恨みっ!!」
――ざしゅん。
「あいたぁああああ!!! てめ、充! 後で覚えてろよ!」
七番、小多朗の娘。
「……?」
――ざくっ。
「ふぐぁっ!」
「きゃーっ」
……喜ばれた。だけど、ものすごく痛かったんだけど……。
「最後はこの俺。炎摩小多朗サマが貴様を昇天させる!」
……え?
みんな大人なんでしょ? 手加減するんでしょ? あれは嘘なの?
ねぇ、誰か答えてよ!
「散れぇぇぇえええ!!」
「ひっ、ひぃぃぃいいいい!!!」
――ざくw
「うぉあぁあああああああああたぁああああああああ!!!」
何とも言えない痛みに、俺はあれだけ重くて動けなかった砂の布団から飛び出し、海に向かって全速力で逃げていた。
そんな俺の姿を見て大爆笑する連中。
今に見てろよ。
とにかく、海へ飛び込んだ。浅いけど、砂が体についてて気持ち悪いし。
ってか……刺された所に海水が染みて――痛い!!
チョー痛い、クソ痛い、めっさ痛い!!
くっそーアイツら、腹を抱えたり、こっちを指差して笑ってやがる!!
あの小多朗でさえも笑っているんだ。相当なことをやらかしたってことだぞ。
つーかあのヤロー……よりによって急所狙ってくるか? しかも思いっきり。多少は避けたからよかったものの、刺さってたらシャレにもなんねーよ!
「ということで、俺の一人勝ちだな。今日の王様は俺――ということでみのんちゃん……」
ご指名ありがとうございます、王様――とてつもなくイヤな予感が……。
「もう、一ラウンド。みのんちゃん危機二発目ゲーム……ね」
「いやだ」
「……ちぃっ。つまんねぇヤローだ」
今、思いっきり舌打ちしたな。十五メートルぐらい離れていても聞こえたぐらいだから。
「じゃぁとりあえず……みっちゃん危機イッパツゲームで我慢するか」
「お、オレかよー! 冗談じゃ――」
小多朗に思いっきりどつかれてこける充。
「さぁ、埋めるんだ、皆の衆!」
「うわー、やめろぉぉぉおお!!」
あっさり埋められた充。
棒を持って並ぶ連中。
「一人ずつじゃ面白くないな。みんなで刺すか」
「ちょ……待て……」
充は囲まれ……俺からは姿が見えなくなった。
「じゃ、せーので刺すぞ。せーの」
「あいやぁ――いやいやいやいやいや――――――!!」
そりゃ、一気に来たら痛いよな。
ふと視界の隅に海水に浮く何かが……竹の棒、およそ六十センチのものがある。
先ほどの仕返しと言わんばかりに俺はそれを手に取ると、
「さっきの恨みぃぃぃいいい!!」
充に向かって走り出した。
「あ゛――!! オマエ、殺す気かぁあああ!!」
危機を感じ、砂から飛び出し、逃げる充。棒を振り上げ、追う俺。
「待ちやがれ! さっきのかなり痛かったぞ!」
「おほほほ、捕まえてごらんなさい」
「黙れ!」
竹の棒を充に向かって投げると、
「ぐぶぁ!」
回転しながら背中に命中。
――ずしゃん。
倒れた。
「くっくっく、捕まえたぞ」(吹き替え)
「きゃん、離してください」(吹き替え)
「もう、逃がさない。逃げられると思うなよ」(吹き替え)
「無理あるからやめろよ。みのんちゃんとみっちゃんはそういうキャラじゃない」
「……そうですね。いまいち萌えないです」
「萌えんなや。燃やすぞ」
「……はいっ」
「ぎゃーっ!!」
「十五年前のプリンの恨み!」
「いてっ……そんなこと覚えてねぇ!」
「二年前、お前と間違われて、知らない奴に殴られたときの恨み!」
「あたっ……なんだよ、それは!!」
「どーせお前がどっかの女を適当にたぶらかしたんだろ!」
「なんだと!? たぶらかしただなんて人聞きの悪い。オレはいつも真剣だ!」
「はっ……どこが?」
「ま、しばらく終わりそうにないから、ちゃっちゃとバーベキューの準備でもするかね」