【CL-S目次】

■CAMPUS LIFE S■


 部室に呼び出された俺は、小多朗とふたりきり。
 机を挟んで対面しているが、大事な話ってなんだろう?
 ……まさか、愛の告白なんてことはないよな?
 ……うん、大丈夫だ。小多朗は結婚してるし、子供もいるんだ。血迷ってもホモなはずはない。
 たぶん……。
 そう、信じたいけど、この男、どこまで本気かわからないからなぁ……。

 いや、きっと、マイちゃんの作品中毒で俺がおかしくなりはじめてるだけで、俺もホモではないし、小多朗もホモではない。
 そうだそうだ。マイちゃんのせいだ。男の二人組みをみるとおかしな方に考えてしまうのも、彼女のせいなんだ。
 それ以外のなんでもない。
 俺も、悪友も、ノーマルだ。
 今日も妙な話題でからかわれるのは俺だけなんだ……と信じてる。
 だからと言って、決してそれが好きなわけではない。

 ずっと黙っていた小多朗が口を開いたのは、タバコを一本吸い終わった後だった。



「実は……だな。俺はみのんちゃんと同姓同名の人を知っているのだ」
 いつも通り、何の関連性もなく突拍子のない話題に、俺は首を傾げた。
 俺と同姓同名? ってことは、野田稔という人物がもう一人いるということか。
 一体どんな人なんだろう?
 ……いやいや、小多朗の知り合いなのだ。ろくな人間ではないはずだ。
「ガソリンスタンドの店員で、バツイチ」
 ほらみろ。
「RPS13(180SX)と見せかけて、顔面はシルビア、通称『シルエイティ』と呼ばれる車を振り回す……」
 暴走族か?
「四歳年上の女性だ」
 ……おんなぁぁぁ!?
「性格はかなりドきつい。口調がなぜか命令みたいに聞こえるんだ。彼氏以外の場合だけど」
 彼氏がいるのか……しかもツンデレ? 物好きはいるものだ。小多朗のヨメも含む。
「目玉が飛び出そうなほど目をひん剥くなよ。ついでに、俺に対して失礼なことを考えなかったか?」
「いや、気のせいだろう。そのまま話を続けてくれ」

 相変わらず、小多朗はいい突っ込みをする。そこまで見抜くとは、あなどれんな。
「話を続けてみたいのだが、みのんちゃんが知らない登場人物名ばかりになるのでやめておくよ。きっと、みの脳では理解しきれんだろう」
「……おい、人を昆虫の脳みそみたいな言い方するな」
「おっと、失言だったな」

 とは言っても、反省の色が全くないのは小多朗の仕様。ここで怒ると思う壺。我慢、我慢。
「じゃ、あらすじだけ語ってやろう」
 あらすじって何だよ?
 ……ん? あれ? ちょっ!!
 何だか分からないセピア色が押し寄せてきた!!




 高校を卒業した俺たち仲良し四人組は、愛車を手に入れ、毎日のようにドライブに出かけていた。昼夜問わず、体力の続く限り、ガソリンの続く限り、所持金が底をつくまでだ。
 その時はたまたま、肝試しでもしよう! みたいな話になって、山奥にある某ダムへ行った。
 何だか知らんが、大量のヘッドライトの光が、ものすごいスピードで、ものすごい音をたてて、連なって道を下ってきたのだ。
 普通に走るのがある意味危険行為だと思った俺たち仲良し四人組は、邪魔にならない場所へ車を止め、道を歩いて上っていると、たくさんの人がそれを見物していた。
 俺たちも混じって見学していると――友人の一人がこう言った。
「あ、兄ちゃんだ」
 更にもう一人の友人(板金屋の息子)も、
「あれ? ウチ(店)の客じゃん!」
 なんて言いだすんだ。
 更に板金屋の息子は驚きの発言をした。
「ちなみにあの白いワンエイティ、おれの作品」
 自分が修理したと言い出した。
「顔面はシルビアだけどね。あの車を見てたら自分も乗りたくなっちゃってさー、ワンエイティにしたんだ」
 だとさ。まだまだ車に関しては未熟だっただけに、意味不明の話だった。
 だいたい、今乗ってる車だって、安くて(一部除く)見た目がカッコイイという理由で選んだだけだし。高田の場合は例外で、兄は先ほど駆け抜けていったあの車が欲しくて、弟に高値で押し付けたらしいけど。




 セピア色が晴れて、解像度300dpiのフルカラー24ビット(JPEG)、もしくは256色でアニメGIF保存じゃない世界に戻った。
「といった感じで、俺たちは野田稔という女性に出会ったのだ」
「全然、意味が分からなかったけど……」
「いや、俺たちと言っても一人はすでに知っていたことになるが……それがのちに彼氏、彼女の関係になるとは、誰も予想もしてなかったな……」

 と、遠くを見ている。
「ちなみに今の話は、十二、三年前に発生した初期型設定をもとに語っているので、パラレルワールドの思い出話にすぎん」
「ぱ、ぱられる!?」
「ふふふ、俺は二つの世界で生きる男なんだぜ?」

 な、なんだとー!!
「その作品はワードプロセッサがイカレたのと同時に、四年にも渡って書いたものは幻の作品と化してしまったのだよ」
 鼻で笑いながら、小多朗は俺を見た。目を細めて、いかにも何かを企んでいそうな目で。
「キミはキャラ救済企画で名前だけを受け継いだ別人。俺とは違うんだ」
 お、俺は父さんと母さんが愛し合って産まれた子じゃなかったのかー!!

「作者はご都合主義」

 ――オポチュニズム!!




「あーちなみに、俺を含む仲良し4人組は共同企画小説サイト『HSD』の花柄傘の伝説? に出ているんだ」
「おい! ココで言うべきことじゃねーだろ!!」





  CAMPUS LIFE Special circumstances――特殊事情 【完】
拍手だけでも送れます。一言あればどうぞ(200字以内)
  

     【CL-S目次】