001・リンダ 結婚しようぜ! 2005
結婚ねぇ……。俺には無縁だね……。
一生独身だろうよ。
結婚したくても、できないみたいだからさ……。
「戸籍謄本って……見たことある〜?」
休日のアパートで、カノンとまったりしていて、何となく思った。
「あるわけないよ。必要ないし」
「まあ……そうだな……」
最初のオヤジと離婚して、林田になって、ババァが再婚して、藤宮になった。……一番最初って、何だったっけ?
まあ、いいか。あんな虐待くそオヤジなんか。
「気になる……」
ナゼか気になって夜も眠れない。……これはもう、調べるしかないでしょ!
一番手っ取り早いのは、母に聞くこと……だが、離婚原因がアレじゃ聞けないな……。
戸籍謄本いっとく?
ってことで、学校行ったフリして、新幹線で一路地元へ……。
市役所で、戸籍謄本の複製をもらう……ってか、買うのか?
しかし、ソレには、信じられないことが書かれていた……。
メンドクサイから略して言うと、
『今のオヤジとババァが、未入籍』
『俺だけ養子として引き取られて、苗字が変わった』
『十八になって、養子から外れて、結婚したことになっている』
……誰と?
「かっ……かの……?!!!」
俺が、婿養子になったってこと? ま〜じ〜で〜?!!!
市役所を飛び出し、その辺の放置チャリを拝借! 猛スピードで、自宅へ向かった!
『冗談じゃない……いや、ラッキーすぎる……が……勝手にそんなことするなよ!!』
自宅に到着し、チャリを乗り捨て、玄関に飛び込んだ!
……あれ? 平日なのになんで開いてるの? ま、ちょうどいいか。
勢いに任せて、リビングに飛び込む!
肩で息をする俺に、母はノンキに……
「あら、おかえり。もう卒業したの?」
んなわけあるか! いちいち突っ込んでる場合じゃない!
「これ……っ……ど……いう……こと?」
先ほど取ってきた、戸籍謄本を母に見せる。しかし、驚きもせず、のんびりとした口調で、
「うん、どうしたの?」
「なんで……俺が……けっ……結婚してんだよ! ……何も……聞いてねえぞ!」
「どうした?」
今度はオヤジ? 仕事は?
「孝幸が、結婚のことで……」
「ああ、そのコトか……」
そのコトかで済ますなよ! 重大なことなのに〜
「二人の関係には、実は気が付いていたんだ。だから、今、一緒に住ませているのだよ」
「いいじゃない。結婚したかったんでしょ?」
「そりゃ……まぁ……」
って……隠してきたのに、バレバレだったのか……今まで……。
無駄なことしていたのか……。
両親は、楽しそうに、式はいつにするかとか、神前だの教会だの、勝手に話を進めていた……。
「帰る……」
「そう。じゃ、華音ちゃんによろしくね」
……なんだかな〜。
気が付くと、ナゼかアパートに戻っていた。
「先にご飯にする? お風呂? それとも……わ・た・し?」
……これは……一度は憧れる展開!
カノンを、俺の部屋に担ぎこみ、狼のごとく襲いかかる。
「かのぉぉぉぉぉん!!!!」
まあ、あとはお決まりの展開ですね……。
あれ? 最初の時の苗字調べに行ったはずなのに……。まあいいか。今は……
「……て……起きてよ! 午前中に講義あるんでしょ?」
「ん〜……あと三……時間」
「昼になるよ!」
と、アタマにチョップを喰らう。
あと三時間で昼ってことは……
「九時?!!」
慌てて跳ね起きると……カノンの部屋だった。
「あれ? 俺の部屋じゃなかったっけ?」
「昨日……っていうか、今朝? そのまま寝ちゃったじゃない……。早く服着てよ……。もうご飯できてるよ」
「……? うん……」
???今朝? 昨日の夜じゃなくて?
やっと、アタマが起動を始め、夢だったことに気付いた。
確かに、朝方まで……だからあんな夢見たのか……?
考えてみれば、おかしなことばかりじゃないか……。夢の中で気付けよ、俺!
でも……夢じゃなかったらよかったのに……。
少し惜しい気もするが、現実は現実として、向き合わなくてはならない。
怪しまれず、一緒に生活できるだけでも、ありがたいんだから……。
それとも……本当は、気付かれてたとか?
急に俺の携帯が鳴り出す。ディスプレイには、『母 携帯』と表示されている。
まさか、心配的中? それとも夢の続きか? とりあえず出てみる。
「はい?」
『孝幸、おはよう。さっき電話したとき、華音ちゃんが出て、寝てるって言ってたから』
「あ〜そう? 全然しらねぇ」
『華音ちゃん、やたら出るのが早かったけど、アンタ、何かしたんじゃないでしょうね?』
ギクリ……
「い……いや、昨日、携帯、台所に置きっぱなしだったからじゃない? 丁度、カノンが朝食の準備してたときに掛けたんだろ?」
カノンの方に目をやると、合わせた両手を枕に例え、耳元に当て『寝てました』のポーズ。
…………。
『彼女できたの? モテないからって、華音ちゃん襲わないでよ?』
「……ウルサイ! クソババァ!」
切。
ズバリ言われると、自前の演技すらできないとは……まだまだ修行が足りんな……。
人の心配までするなよ、昔から人一倍お節介なんだから……。
でも……あの男から、唯一俺を助けてくれた人だ……。
ずっと昔のことなのに、寒くなると、切りつけられた背中の傷は未だ痛む……。
今でも夢に出て、うなされることもある……。
幼少の頃の、心のキズ……。
母が幸せであれば、それでいいと思う……。
でも、あの父親の血が半分でも入っているとなると、今はそうじゃなくても、同じ過ちを繰り返しそうで、時々怖くなる。
最初の苗字は……母子手帳に書かれていたが、二本線で打ち消されたあの苗字……。
服を着て、自室に戻り、引き出しを開ける……。
色褪せ、所々擦り切れた母子手帳。俺がこっちに来る前に、『病歴とか書かれているから、役に立つかもしれない』と、母から渡されたものだ。
思い出せない最初の苗字は……『鎌野』……?!!!!
煤i゜Д゜) <!!!!
「お……俺も『カマちゃん』じゃん……」
_| ̄|○ <……
「どうしたの? 失望したような顔して……」
「ふ……フフン…………」
『カマの孝幸……』もうオカマは卒業しました……。
講義が終わって、夢のこととか、鎌井に話したら……大笑いされちゃったよ……。
**終わり**